‘17年多くの人々の心をつかんだ本のなかから、時代や世の中を映し出し、よりよき未来の扉をひらく鍵が潜む本を、目利きの書店員さんがセレクト。年末年始に読んでおきたい本を一挙紹介します!
コペルニクス的転換。
これから世界と私はどうなるの? 多くの人が手に取った“道しるべ”。
書店で「君たちはどう生きるか」と問いかける、少年のまっすぐな瞳にハッとした人は多いはずだ。80年前の児童文学が漫画の形で復活し大ベストセラーに。「若い人は新鮮な気持ちで、中高年は再会を懐かしみ、世代をまたいで売れています。発売当初は売れるかどうかわからなかったけれどなんだか気になって、その直感を信じて大きくコーナー展開したら好調で。すぐ糸井重里さんが絶賛のツイート、10月にはあの宮﨑駿さんが新作のタイトルに採用して話題に。なんだか時代が全力で後押ししているようでした」(『丸善日本橋店』和書一般書売り場担当・葛目麻子さん)。
コペル君こと本田潤一君は中学2年生。ある日ビルの屋上から街を見下ろした時、自己中心の視点ではない、世界を俯瞰する視点に気づく(コペルという呼び名は、天動説を唱えたコペルニクスに由来)。ひとりひとりが網目のように世の中という大きな流れを作っていると実感したコペル君は、その一方でみんなでひとつの大きな塊になっているせいで、かえって抜け出せなくなる時もあるとも感じる。その場の「多数意見」に流されず、自分で考える。そして頭の中にとじこめずに実行する。今の私たちに刺さるメッセージがページから次々と立ち上がる。
「『未来の年表』や『応仁の乱』のヒットは、未来を展望し歴史を振り返ることで俯瞰の視点を取り戻そうとする流れかも。思考停止の末路をレポートした『誰がアパレルを殺すのか』のヒットも象徴的です」(『紀伊國屋書店新宿本店』1階コーナー担当・加藤翔さん)
金融業界でも“ボンヤリしていると呑み込まれる”変化が加速中だ。「以前は輪郭が曖昧だったビットコインも実用化が一気に進んでいます。女性は金融の話題を敬遠しがちですが、自分には関係ないと思える本ほど積極的に手に取ってみては」(『代官山 蔦屋書店』ビジネス人文売り場ビジネスコンシェルジュ・湯澤洋介さん)
『いまさら聞けないビットコインとブロックチェーン』大塚雄介/ディスカヴァー・トゥエンティワン
着々と実用化が進められているビットコイン(仮想通貨)の仕組みや使い方を、難しい専門用語なしで、経済音痴さんにも親切丁寧に解説。得体の知れないモノと、いたずらに警戒するよりも、まずはその全体像を知識として身につけることが賢明。1500円
『誰がアパレルを殺すのか』杉原淳一、染原睦美/日経BP社
過去の成功体験に縛られて思考停止に陥る、内輪の論理、消費者置き去り等のアパレル不振の原因を詳細にわたり取材。「身に覚えのある」他の様々な業界にもインパクトを与え話題騒然に。「我々は茹でガエルだった」と自戒する百貨店首脳の言葉が印象的。1500円
『未来の年表 人口減少日本でこれから起きること』河合雅司/講談社現代新書
知ってはいるがイメージしにくい少子高齢化の未来像を具体的な実例に落とし込んだ書。人というのは緩慢な変化にはとかく鈍感、無関心になりがちで、気づいた時には手遅れという場合も。来る未来のために今できることは? 巻末では解決策の一案も提示。900円
『応仁の乱 戦国時代を生んだ』呉座勇一/中公新書
スター不在、ズルズル11年。日本の大転換期となった史上稀に見る重要な戦いにもかかわらず「地味な戦い」として敬遠されていた「応仁の乱」。その解説書が異例の大ベストセラーに。当時の混迷っぷりが現代とオーバーラップしているという見方も。900円
『宝くじで1億円当たった人の末路』鈴木信行/日経BP社
表題の他、卒業後放浪を続けた人、友達がまったくいない人、賃貸派、子供を作らなかった人など、将来に不安を抱きそうな選択をした場合の、“意外と悪くない”末路をシミュレートできる。肩にどんより乗っていた同調圧力をすっと軽くしてくれる一冊。1400円
湯澤洋介さん 『代官山 蔦屋書店』ビジネス人文売り場ビジネスコンシェルジュ。今は『人生の勝算』の著者、前田裕二氏の活動から目が離せないとか。
加藤 翔さん 『紀伊國屋書店新宿本店』1階コーナー担当。ミステリー好き。‘17年「鮎川哲也賞」を受賞した新人、今村昌弘氏に注目している。
葛目麻子さん 『丸善日本橋店』和書一般書売り場担当。漫画『大家さんと僕』でデビューしたカラテカの矢部太郎さんの今後の動きが気になるとのこと。
※『anan』2018年1月3・10日号より。写真・内山めぐみ 取材、文・片岡まりこ
(by anan編集部)