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“痛男”に岡田将生! 原作者・柚木麻子「ぴったりだなと思って」

かつてはヒットを飛ばしたものの最近落ち目の脚本家・矢崎莉桜(木村文乃)。彼女は、伊藤誠二郎(岡田将生)という男に振り回されるA、B、C、D4人の女性の恋愛相談を新作のネタにしようと画策。が、顔はいいが口先だけのこの伊藤、実は莉桜の身近にいる男性で…。モンスター級痛男とイタイ女たちの攻防を描く映画『伊藤くん A to E』がいよいよ公開。原作者の柚木麻子さんと伊藤役の岡田さんが語る男と女とは?

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柚木:伊藤役が岡田さんだとうかがった時、イメージぴったりだなと思って。と言ったら失礼ですよね。

岡田:いえいえ。

柚木:岡田さんといえば『オトメン(乙男)』から『ゆとりですがなにか』までいろんなイメージがありますが、『悪人』を観た時、なんて悪い奴だろうと思ったんです。でも、今回がこれまでで一番憎らしい役ですよね。冒頭の場面から悪魔的な笑顔を見せて、本当に性格悪そうで。

岡田:あはは。最高の褒め言葉だと受け取ります。

柚木:伊藤を演じる俳優さんにとっては、損しかないと思いますが…。

岡田:廣木隆一監督にも「お前ホント損してるな」って言われました(笑)。でもこういう役に出合えるのはすごく嬉しいことです。お会いしたら聞こうと思っていたんですが、伊藤のモデルになった男性が実際にいるって本当ですか。

柚木:本当です。佐々木希さん演じるAのモデルになった子が、本当にこういう男に振り回されたんですよ。ナルシストで、自意識過剰で、自分は傷つきたくないっていう男。伊藤くんとAのラーメン屋さんの場面は実話ですよ。

岡田:撮影前に柚木先生に会ってお話聞いておきたかった(笑)。僕、最初、伊藤の言動が理解できなかったんです。でも実在する人だと知って、すっと入ってくる感覚があって。撮影中も原作を読み返して、「雷のように胸元を見る」といった伊藤の動作の表現を参考にしました。

柚木:そんなふうに読んでもらえたなんて、すごく嬉しいです。本当にキラキラした、クリスタルのような悪魔でしたね(笑)。

岡田:エンタメに徹してキャラクターを誇張して濃く演じるか悩みましたが、監督に「自然にしているなかで伊藤っぽさを感じさせるように」と言われて、しつこさやウザさといった「伊藤っぽさ」を自然に出すことを追求しました。それで、演じているうちに伊藤に対して否定的な気持ちがなくなっていって、しかも最後のほうは結構好きになりました。

柚木:えっ、そうですか?

岡田:結構純粋な人だなと思って。

柚木:えー(大袈裟に顔をしかめる)。

岡田:えっ、違います?

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柚木:確かに純粋といえば純粋ですが、自分では何もしない、傲慢な人ですよ。伊藤のモデルはカメラマンか何かを目指していたので、個展を開いたら観に行って、思い切りけなしてやろうと思っていたんですよ。でも人に評価されるのを嫌って作品づくりもしないから、けなす機会がなかったんです。

岡田:リングに上がらず、闘おうとしない人ですよね。僕はどんな仕事でも、どうしても闘わなくちゃいけない時ってあると思っていたんです。伊藤のように闘わないという考え方をしたことがなかったので、それが新鮮で。

柚木:伊藤の考え方に呑まれないで!(笑) 私はAのモデルになった子に話を聞いた時、会ったこともない男の人に対してなんでこんなにイライラするんだろうと思って。考えてみたら、その話を聞いた頃って、私はデビューしたてで失敗続きだったんです。だから彼のような、逃げ続けて失敗したことのない人に苛立ったんだと思います。結局、伊藤くんみたいな人って合わせ鏡なんですよ。一緒にいると自分に返ってきて、自分と向き合わざるを得なくなる。

岡田:伊藤って、人を変えさせる人なんですね。

柚木:そうなんですよ、変わらざるを得なくなるんですよ、女性たちは。

岡田:撮影ではカットの後に、女性陣が伊藤のことを、「気持ち悪っ!」とか言うんですよ。そう言われて最初は傷ついて、でも言われているのは僕じゃなくて伊藤だし、と思っていたんですが、途中で「いや待てよ、あなたたちも結構イタイんだぞ」って。心の中で勝手に反撃していました(笑)。Aの子は重たいし、Bの子は自己防衛しすぎるし…。みんな駄目といえば駄目ですよね?

柚木:私は、この子たちみんな、イタくて重いところも含めてすごく好きなんです。それに普段はすごくいい子たちですよ。Aはよく働いているし、Bは知識豊富だし、Cは一緒にいる人を幸せにさせてくれるし…。みんな、伊藤みたいな男といるから、悪い部分のマグマが出てきちゃっているだけなんです。

ゆずき・あさこ 作家。1981年生まれ。2008年「フォーゲットミー、ノットブルー」でオール讀物新人賞を受賞し、’10年に同作を含む『終点のあの子』でデビュー。’15年『ナイルパーチの女子会』で山本周五郎賞を受賞。

おかだ・まさき 俳優。1989年生まれ。2006年デビュー。出演作に映画『天然コケッコー』『雷桜』『告白』『ストレイヤーズ・クロニクル』『銀魂』『何者』『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない第一章』など。
テレビドラマ版も話題になった『伊藤くん A to E』が、岡田将生×木村文乃のW主演で映画に。監督は廣木隆一、原作は柚木麻子。“痛男”伊藤くんと、彼に翻弄される5人の女性たちを描く。1月12日(金)全国ロードショー。(C)「伊藤くん A to E」製作委員会
※『anan』2018年1月17日号より。写真・小笠原真紀 ヘア&メイク・池上 豪(NICOLASHKA) スタイリスト・大石裕介(DerGLANZ) 取材、文・瀧井朝世
(by anan編集部)

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