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満席続出! 齊藤工監督作『blank13』をスクリーンで観るべき理由とは?

エンタメ

俳優としてだけでなく、写真家や映画コラムニスト、さらに最近では覆面芸人としても始動するなど、「いったい天は何物与えるんだ」と思わず言いたくなってしまう存在といえば、幅広い層から人気の高い斎藤工さん。クリエイターとしては「齊藤工」の名義で展開されていますが、なかでも本領発揮しているのが映画監督としての活動。すでに短編を6作発表していますが、今回ご紹介する作品とは……。

待望の長編デビュー作『blank13』!

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【映画、ときどき私】 vol. 146

コウジは母と兄、そしてギャンブル好きの父と4人で暮らしていた。ところがある日、タバコを買いに行くと出かけたまま父が突然失踪してしまう。そして、13年のときが経ち、父は余命3か月で見つかるものの、借金を残したまま姿を消した父に母と兄は会おうとしなかった。

しかし、子どもの頃にキャッチボールをしてくれた優しい父を忘れられなかったコウジは、入院先を訪ねることを決意する。13年ぶりの再会をはたすも、2人の溝は埋められないまま父はこの世を去ってしまう。その後執り行われた葬儀では、数少ない友人たちが参列し、父とのエピソードをそれぞれ語り始めることに。そして、父の知られざる “真実” が徐々に明かされていくのだった……。

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24日からの全国公開を前に先行上映されていたので、さっそく劇場に行ってみましたが注目度の高い作品だけに連日満席。私も最後の1枚といわれた立ち見券をかろうじてゲットし、観ることができました。

劇場で観ることで得られるものとは?

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本作はタイトルクレジットを境に、家族の歴史を描いた前半と葬儀の様子が展開される後半とにわかれており、テイストが大きく変わるのが特徴。そのなかでも、驚くべきは葬儀のシーンが役者たちのアドリブによって繰り広げられているということです。

キャストとスタッフに絶対的な信頼感がなければ撮ることが難しいシーンだけに、観ているこちらにまで伝わってくるのは、次に何が起こるかわからない緊張感とライブ感。さらに、畳みかけるような予測不能な笑いの渦に巻き込まれ、一気にスクリーンのなかへと引き込まれていくことに。

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そして、一緒に笑ったり泣いたりしている観客のなかに生まれるのは、ある種の一体感。知らない者同士が集う葬儀会場と、知らない者同士がひとつの空間に集まる劇場とがリンクし、まるで自分たちもお葬式に立ち会っているかのような雰囲気に包まれましたが、それこそが劇場で映画を観ることの醍醐味であり、劇場でしか味わえないものなのです。

家族とは何かを突きつけられる!

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今回、これだけキャラの濃い俳優陣が集結しているだけに、カットするには惜しい映像も多かったのではないかというのは想像に難くないですが、それにも関わらず本作は70分という長編としては短めの尺。とはいえ、そこには映画に造詣の深い齊藤監督だからこその手腕が光る “引き算” があり、絶妙な切り取り方によって各シーンがより印象的に映し出されています。

放送作家のはしもとこうじさんの実体験がもとになっている本作は、決して派手なストーリーではないですが、誰にでもいる家族の物語だからこそ、それぞれの “家族の風景” が観客の心にも広がるはず。私にも少しややこしい家族がいますが、面倒だけど愛おしい家族の姿が浮かび、胸の奥がグッと痛くなったあとに、温かくなりました。

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説明過多ではないからこそ、観客が自ら想像したり、自分と重ね合わせたりすることができる “余白” があり、それこそが多くの共感を呼んでいる理由のひとつ。上海国際映画祭「アジア新人賞部門」での最優秀監督賞など、海外の映画祭でも数々の賞を受賞していますが、言葉や文化を超えて受け入れられたのもうなずけます。

個性豊かなキャストが生み出す見事な化学反応!

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そんな本作を支えているのは、主演の高橋一生さんやリリー・フランキーさんをはじめとする実力派俳優たち。「こんなところにこの人が!?」と思わず言いたくなってしまうような豪華メンバーたちもあちこちで登場するので、くれぐれもお見逃しなく。

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そのなかでも、同じ女性として注目したい人物といえば、母親役を演じた神野三鈴さん。女性が持つ強さや儚さを見事に表現されていますが、特にラストシーンが秀逸。愛した人を心のなかで火葬しているかのような姿が見せる切なさと佇まいの美しさは、思わず鳥肌が立つほど忘れられないシーンとなっています。

感情を揺さぶる音楽を体感する!

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そして、本作のもうひとつの主役といえば、映画とは切っても切り離せない音楽。煩悩の数にちなんで、最初から最後まで108のビートで作り上げたという金子ノブアキさんの音楽も重要な役割をはたしていますが、特筆すべきは最後に流れる新潟在住のシンガー・ソングライター笹川美和さんの歌う「家族の風景」。

タイアップなどで主題歌が決まることが多いなか、齊藤監督がどうしてもこの曲にしたいと最初からこだわっていただけに、「この映画のために作られたのではないか」といわれているほど。実際、曲が流れる瞬間には、映画を完成させる最後の1ピースがピタリとはまったかのように感じるはず。琴線に触れる力強い歌声は必聴ですが、この曲へとつながるこだわりの小道具も劇中には登場するので、一度聞いてから鑑賞するのがオススメです。

映画は最後の最後まで見届ける!

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私は好きな映画に出会うと、「続きが見たいけどまだこの世界にいたいから、終わらないで欲しい」という葛藤が生じますが、今回もまさにそんな感覚。おそらく、多くの人が同じように思うかもしれませんが、そんな要望に応えるかのごとく、エンドクレジットのなかにも、“おまけ” が待ち受けているので、くれぐれも劇場が明るくなるまでは立ち上がることのないようにしてください。

以前、ananwebで斎藤さんにインタビューした際に語っていたのは、「俳優が記念で映画を撮ったということにしたくはないので、これからも戦い続けたい」という並々ならぬ思い。映画への愛情で埋め尽くされた本作を観たあとには、スクリーンで受け止めることの意味をきっと感じられるはずです。

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