アラサー女子にもなると、日々何かしらの問題に立ち向かうことも多く、「人生山あり谷あり」を実感している人も多いはず。そんなときにオススメしたい映画は、驚異の自然に挑む人間の姿に迫った注目のドキュメンタリー『クレイジー・フォー・マウンテン』です。そこで今回は、本作を手掛けたこちらの方に、お話を聞いてきました。それは……。
ジェニファー・ピードン監督!
【映画、ときどき私】 vol. 178
これまでにも数々の山岳ドキュメンタリーで高く評価されてきたピードン監督ですが、今回手掛けたのは、エベレストやモンブランといった世界屈指の山々で繰り広げられる衝撃の瞬間を映し出した話題作。
ロープもつけずに断崖絶壁を登頂するロッククライマーなど、超絶映像の連続には思わず息が止まってしまうはず。そこで、撮影秘話から悩みを乗り越えるためのアドバイスまで、幅広く語ってもらいました。
予想外の成功をもたらした理由は?
―本作はオーストラリアでは、2017年のドキュメンタリー部門でNo.1の大ヒットとなりましたが、これだけの成功を予想していましたか?
監督 正直言って、これだけ多くの人の心に響いたというのは驚きだったわ。というのも、この映画は、自分の作品というよりもオーストラリア室内管弦楽団から委託を受けて作ったコラボレーション作品。つまり、コンサートをするときに一緒に流す映像を作るということで始まった企画だったので、興行収入や成功というものに関してはまったく考えずに作っていたのよ。
でも、「せっかくだから映画館でも上映できる作品にしよう」と発展したのが、今回の映画なんだけど、映像と音楽でどこまでできるかというチャレンジでもあったわ。だから、それが結果的に多くの観客に届いたのはうれしいことよね。
―ということは、山好きだけでなく、それ以外の方からも反響があったということですか?
監督 そうなのよ。なぜなら、そもそもオーストラリアは山が少ないし、山好きだけではこれだけの成功にはならなかったと思うわ。だから、山好き以外の方もたくさん観に来てくれて、気に入ってくれたというのは大きかったわね。
たとえば、スリルを求めている若者からクラシック音楽が好きな方、それから哲学的な側面を持つナレーションに惹かれたという方まで幅広い人たちがいろいろな形で楽しんでくれたのよ。あとは山というのはあくまでも比喩であって、生きるうえでの困難をどういうふうに乗り越えていくかということを考えさせられる部分もあるので、そこもみなさんに響いたのかなと感じているわ。
圧倒的な映像に臨場感がスゴすぎる!
―この作品の魅力は何と言っても圧巻の映像ですが、いったいどうやって撮影しているのかと思うシーンの連続でした。撮影で苦労したことはありますか?
監督 今回は、ドローンや空中撮影、カメラマンも一緒に登りながらの撮影もあったけれど、こういう環境で撮影するのは難しいし、とても厳しいこと。たとえばオープニングの岩壁を登っているシーンなんて、カメラマンはロープでつるされた状態で撮影しているくらい過酷なのよ。
あとはヒマラヤでは標高が高すぎて空気が薄いから、ドローンやヘリコプターのプロペラが機能しなくなってしまうのも大変だったわ。だから、今回は私が撮り下ろした映像以外にも、撮影監督がこれまで撮りためていたものや彼の知り合いの登山家の方々が自ら撮影した映像を借りて構成していくことにしたのよ。
―では、完成までにかなりの量の映像をご覧になったんですね。
監督 それはとにかくすごい量だったわね。おそらく1000時間は超えてると思うわ!
映画監督への道のりとは?
―これまでもさまざまなドキュメンタリーを手掛けられていますが、そもそも映画監督になろうと思ったきっかけはなんですか?
監督 きっかけというか、「映画監督になりたい」という気持ちが徐々に芽生えていったというほうが正しいわね。というのも、若いときは世界中のいろいろなところを旅しながら写真を撮るのが好きだったから。
でも、最初は映画とは関係ないビジネスの世界で働いていたんだけど、あるとき映画を制作するコンペみたいなものに応募する機会あって、それにチャレンジしてみたの。そしたら、「これまでの私のスキルを全部合わせると、映画がぴったりなんだ」とピンときて、それ以降いまの道をきわめてがんばっているというわけよ。
―実際に映画の世界に飛び込んでみていかがでしたか?
監督 映画監督というのは、いろいろな分野が絡んできているので、音楽や音響、物語を伝える力や感情表現、それからコミュニケーション能力というのがすごく大事よね。あとはその場その場ですぐに判断していかないといけないことも求められているんだけど、そういう部分も含めて、私に向いているかもというふうに思えたのは大きかったわ。
立ちはだかる女性ならではの困難!
―とはいえ、まだまだ男性社会の映画業界で、女性だからこそ問題にぶつかったことはありませんか?
監督 若いころは自分の性別を意識するということはなかったんだけど、山に登るようになってから撮影隊のなかで女性は私ひとりだけだったから、感じずにはいられなかったわ。とはいえ、「女性だからできない」という言いわけはきかないし、「あいつは女性だからダメだな」とも言われたくなかったから、「誰よりも上手にできるわよ!」というのを見せるために人一倍がんばっていたわ。
でも、逆にそれが私にとってはいい訓練期間になったし、とにかく仕事に集中することができたのはよかったわね。だから、そのあとで私がはじめての長編作品をエベレストで撮影することになったとき、私には無理だと言う人は誰ひとりとしていなかったのよ。
―では、女性だからこそのメリットもありますか?
監督 やっぱり女性は男性とは違う視点で世界を見ていると思うから、女性ならではの視点で描くことができるところね。しかも、私の作品というのは、男性的な環境を描いているにもかかわらず、そこにあえて違う女性の視点で切り込んでいるから、もしかしたらそれが魅力につながっているところもあるのかなとは思っているわ。
映画界で女性監督として認められるまでにはものすごく大変なこともあるけれど、女性監督が作るからこそほかにはないおもしろい作品が作ることもできるはずだから、女性監督たちにはもっと多岐にわたった幅広い作品を作っていって欲しいわ。