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昼間に眠くなるのは異常!? 「Pokemon Sleep」監修者が“睡眠”を解説

私たちが毎日とる睡眠には、実は未解明の謎がたくさん! そんな睡眠を研究する筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構長の柳沢正史さんに、眠りに関する疑問をぶつけてみました。

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睡眠学の世界的権威であり、話題の睡眠ゲームアプリ「Pokemon Sleep」の監修も務める柳沢正史さん。これまで睡眠にまつわる多くの謎の解明に貢献しており、そのなかでも特に力を入れているのが、眠気の正体を突き止めること。

「実は眠気の脳内での実態は、まだよくわかっていないんです。それを最先端の神経科学やモデル動物を使った基礎的研究を通じて解明しようとしています。そもそもなぜ動物が睡眠をとるのかも、どう睡眠を調節しているのかもまだわかっていません。眠気の研究は、そうした謎を解き明かすために必要不可欠なものなんです」

もうひとつ柳沢さんが力を入れているのが、多くの人に自分の睡眠について知り、改善するための機会を広めること。柳沢さんが創業した株式会社S’UIMINは、睡眠を正確に計測する唯一の方法である脳波を測定して解析する、睡眠計測サービス「InSomnograf(インソムノグラフ)」を実用化している。

「睡眠の質は、自分ではわかりません。それを見える化し、改善のためのヒントを提供できればと思っています」

睡眠は誤解されていることが多いと語る柳沢さん。睡眠にまつわる6つの疑問に、最新科学で答えていただきました。

Q1、そもそも睡眠ってどういう状態?

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A、PCに例えれば、脳のオフライン状態。「脳の休息」というのは誤りです。
睡眠を「脳の休息」と捉えている人も多いのですが、実は眠っている間も脳は活動を続けているんです。ただ、その活動内容が覚醒中(起きているとき)とは異なります。PCに例えるならば、覚醒中は脳が外から情報を得たり、話したり動いたりすることで外に情報を伝えたりできる「オンライン状態」。一方、睡眠中はよほど大きな刺激がなければ五感も働かず、動いたり、他者とコミュニケーションをとったりすることもできない「オフライン状態」といえるでしょう。とはいえ、オフライン状態の間も脳はメンテナンス活動を続けているので、休息とはいえないのです。実際、睡眠中も脳の「燃費」は下がりません。

Q2、ちゃんと眠れているかってどうすればわかる?

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A、自分の感覚は当てにならないことも。正確に知るためには、脳波の計測を。
実は、自分が考えている主観的な「よく眠れた」と、データで見たときの客観的な「よく眠れた」には大きな違いがあるんです。そして「途中で起きなかった」「朝すっきり起きられた」といった主観的な指標は、あまり当てになりません。実際に「4時まで眠れなかった。2時、3時、4時に時計を見たから間違いない」と主張した人の脳波を見ると、その間くらいにぐっすり眠っていたという例もあるんです。最近では、手軽に睡眠記録をつけられるスマートウォッチやリングもあります。ただ、こうしたデバイスは使用環境によって精度に差があることに注意しましょう。よく眠れているかを知るには、脳波を測るのがいちばん正確です。

Q3、「不眠」と「睡眠不足」の違いは?

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A、眠れないのが「不眠」、眠らないのが「睡眠不足」です。
専門用語における「不眠」は、眠ろうとしているのに眠れないこと。一方の「睡眠不足」は眠らないこと、つまり、その人にとって必要な睡眠時間を確保しないことを指します。特に自覚のない睡眠不足は「行動誘発性睡眠不足症候群」という名前の立派な病気です。たまに「寝ても寝ても昼間に眠くなる。過眠症かもしれない」と心配される方がいますが、話をよく聞いてみると実は5時間しか寝る時間を確保していなかったということもあります。睡眠が足りていないのですから、眠いのは当たり前ですよね。また、睡眠不足の自覚があっても眠ろうとしない人も多いです。現代の睡眠不足は「覚醒に対する依存症」ともいえるでしょう。

Q4、ショートスリーパーって本当に健全なの?

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A、ショートスリーパーは極めてまれ。健康に被害がないかはわかっていません。
大人の98%は平均して6~8時間の睡眠が必要です。1日4~5時間の睡眠で足りるとされるショートスリーパーは極めて珍しく、数百人に一人。生まれつきの体質で、後天的になることはできません。自称ショートスリーパーの人もいますが、それは睡眠不足に対する自覚症状が出にくい人。逆に言えば、十分に眠ったときの心身のパフォーマンスを発揮できていない人ともいえます。しかし、睡眠不足が続くにつれ、メンタルの不調や認知症、がんなどのリスクは上昇します。また、ショートスリーパーは極めて少なく、不調を訴えることもないので研究ができません。それゆえ、実際に健康被害がないのかはわからないのです。

Q5、大人に昼寝はいらない?

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A、基本的には必要ありません。昼間に眠くなるのは「異常」です。
昼寝が必要とされるのは、基本的に4歳くらいまで。それ以上の子どもに昼寝をさせると、夜に眠れなくなるので逆効果です。実は、大人が昼間に眠くなるというのも異常なこと。日本は世界でも特に睡眠が不足している国で、昼間に眠くなるのは当たり前だと思っている人も多いのですが、国際標準からしたらおかしいのです。子どものときから睡眠不足が続くので、慣れてしまっているだけなんですよね。とはいえ、眠いけれど起きてなくてはならない状況もあります。そういう場合は、ガムを噛んだり、ディナータイム以前ならコーヒーを飲んだりするのがよいでしょう。また、昼過ぎまでに20分くらいの仮眠も有効です。

Q6、睡眠不足の美容への悪影響は?

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A、睡眠不足はダイエットの敵。肌のバリア機能も落ちてしまいます。
睡眠不足が慢性的に続くと、それだけで内臓脂肪が増え、摂取カロリーも増えがちになることが医学的に証明されているほか、肥満や高血圧などのリスクも上がります。いくら食事や運動を頑張っても、睡眠を十分にとれていなければ効果が上がりません。また、睡眠不足は肌のバリア機能や肌ダメージからの回復力を弱めてしまいます。そのほかにも、睡眠不足はうつ病などのメンタルの不調につながることも知られています。そもそも健康な人が「寝すぎる」ことは不可能なんです。「12時間寝てしまった」という場合は、それまでの睡眠不足という借金を一部返しただけ。本当に睡眠が足りていれば、それ以上は眠れなくなります。

柳沢正史さん 筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(IIIS)機構長・教授。株式会社S’UIMIN代表取締役社長。睡眠学の世界的権威であり、科学界のアカデミー賞ともいわれる「ブレイクスルー賞」(2023年)など国内外で賞を多数受賞。

※『anan』2023年9月6日号より。イラスト・ビオレッティ・アレッサンドロ 取材、文・川鍋明日香

(by anan編集部)

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