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"小1の壁"が不安な親に、大日向雅美さんがこの時期に伝えたいこと。「1年生になったら...と考える前に」

子育て

こどもが小学校に入学するにあたり、多くの親が直面する「小1の壁」。保育園に預けていたときよりも仕事や時間の調整が必要になることを指すこの言葉が浸透したことで、親がより早くから不安や焦りを感じるようになる傾向もあります。こどもの発達心理に詳しい研究者の大日向雅美さんが「入学までにまだ時間があるこの時期にこそ伝えたい」というメッセージを紹介します。

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小学生になると大人とつないだ手を離し、ひとりで登校するようになります(写真はイメージ)
Adobe Stock / kapinon

小学校生活のスタートをわが子がうまく切れるだろうか。先生の言うことをちゃんと聞けるだろうか。友達と仲良くできるだろうか。

そうした心配が高じてふと気づくと「小学生になるまでに、あれもこれもできなければならない」という焦りになってはいないでしょうか。

1年生になるまでにひらがなを読めなければならない。時計がわかるように数字も勉強しておかないと。英語も早めに始めておいたほうがいいし、スポーツの習い事もいくつか考えておこうかーー。

そうやって予防線を張りはじめると、わが子が小学生になる喜びや楽しみよりも焦りのほうが大きくなってしまいます。それはとてももったいないと思います。

ただでさえ情報化社会の昨今です。準備を先回りしすぎるあまり、いまこの瞬間を楽しむ余裕をもちづらくなっています。「小学生になったら」と1年生になるタイミングを人生の決定的なスタートラインと考えてしまいがちですが、それまでも、これからも、わが子とのかけがえのない瞬間はたくさんあるんです。

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大日向雅美(おおひなた・まさみ) / 恵泉女学園大学学長
お茶の水女子大学卒・同大学院修士課程修了・東京都立大学大学院博士過程満期退学。学術博士。専門は発達心理学(親子関係・家族問題・少子化対策・子育て支援)。1970年代初頭のコインロッカー・ベビー事件を契機に、40年近く母親の育児ストレスや育児不安の研究に取り組む。NPO法人あいぽーとステーション代表理事、子育てひろばあい・ぽーと施設長
写真提供:オフィスOHINATA

1年生で急にできるわけではない

そもそも小学生になるからといって、こどもは急に成長するわけではありません。

1年生になったらひらがなを読めるのではなく、それまでに絵本を読んでいたら、自然と文字に興味をもって、やがて読めるようになります。

でも、絵本が好きではない子もいます。動画を見て歌って踊ることが好きな子、電車が好きで時刻表を読み解きたい子、外で体を動かすのが好きな子......。それぞれが好きなことを思う存分やる中で、自然と知識が身につき、世界が広がっていくのです。だからこそ、いまを楽しんでいただきたいと思います。

小学校生活は、いま過ごしている時間の延長です。こどもが求めていることを一緒に楽しんでいたら、おのずとその子らしく、その子のペースで育っていきます。

生活習慣やしつけは入学するためにだけ教えるのではなく、この先もずっと伝え続けていく必要があります。「小学校に入るためにだけ、こどもがやるべきことは特にない」と思っていいでしょう。

ある保育園では、小学校の入学前に急に担任が態度を変え、「先生〜」と抱きついてくるこどもに「『先生、お話があります』と言いなさい」などと指導を始めたことで、こどもたちが不安定になったことがありました。

こどもが恥をかかないようにしたいという親や保育者の思いの裏には、もしかしたら自分の保育や育て方が評価されるのではという不安があるのではないでしょうか。こどものためという善意のはずが、無意識にこどもを追い詰めてしまうことのないように、この時期の大人は改めて振り返っておきたいですね。

「小1の壁」で備える2つのこと

「小1の壁」に関しては、「こどもが早くしっかりしなければ」「お留守番もできるようにならないと」といった焦りは禁物です。こどもにがんばらせるよりも、親が準備を整えておくことが必要です。

ひとつは、学童保育や預かりサービス、勤務時間の調整などで「こどもが安心して帰れる場所」を確保しておくことです。

保育園のときと違って、こどもが学校にいる時間と親の勤務時間のギャップが大きくなりがちです。このギャップを埋めるには、日頃からママ友やパパ友、親戚、近所の人などと助け合える人間関係を築いておくことが必要です。

「小1の壁」に関するメディア情報や「やるべきことのチェックリスト」を読んだり試してみたりすることも良いでしょう。そのうえで、それに振り回されすぎないよう、自分のライフスタイルやこどもの個性と合っているかどうかを見極めてみてください。

もうひとつは、こどもの心の拠りどころとなる「安全基地」を整えておくことです。

2,3歳の頃、公園でだんだんと親から離れて砂場や遊具で遊べるようになってきたように、こどもは親に守られた「安全基地」から少しずつ出ていきます。小学生になるときには「何があってもここに戻ってくれば絶対に大丈夫。必ず守ってあげるからね」と、改めて言葉にして「安全基地」の存在を伝えてあげてください。

こうした準備を整えないままに、こどもに「がんばれ」と背中を押すのは、いきなり荒海に突き落とすようなものです。

両親ともに家にいないときに電話をかける番号をリストにしたり、困ったときに助けを求めて駆け込める人や場所を地図にしたりして、「何があっても大丈夫。みんなが味方になってくれるから」と、物理的、精神的な居場所があるということをわかりやすくこどもに示しておく。そのうえで少しだけ背中を押してあげると、こどもは安心して世界を広げていくことができるでしょう。

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大人の知らない、こどもだけの世界が広がっていきます(写真はイメージ)
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

身体ごと後ろを向いていた

私自身は小学生のとき、学校があまり好きではありませんでした。

扁桃腺でよく熱を出したりして休みがちでした。その一方で、いたずらっ子で先生を困らせることもたくさんしたようです。「ようです」というのは、そのことで先生や親から怒られた記憶がないのです。

私はこどもなりに精いっぱい、良い子でいたいと思っていました。いたずらをしたといっても、相手を困らせようとしてしたことではなく、ごく自然に自分の気持ちや興味のままに動いていただけなのだと思います。そのことを先生や親も分かってくれて、学校や大人の世界のルールを一方的に私にあてはめるのではなく、私がなぜそうするのかを考えてくれていました。

私を「悪い子」とか「困った子」とは見ないで、むしろ「天真爛漫な子」と見てもらえたことは、とてもありがたかったと思います。牧歌的な時代だったのかもしれませんが、私自身、こんなこども時代の思い出がありますので、こどもの視点に大人が寄り添うことがとても大事だと実感しています。

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