セックスレスな関係にある女性の中には、パートナーがセックスに応じてくれないことへの不満から、離婚を考えたことがあるという人も。では、セックスレスを理由に離婚することは可能なのだろうか? パートナーが離婚に応じてくれず裁判に至った場合、認められる確率は?
万が一の事態に備えておきたい法律の知識を学ぶべく、離婚問題に強い弁護士・森上未紗さんにインタビュー。夫婦関係の破綻を証明する方法から、女性も注意すべき風俗通いの落とし穴まで、目から鱗な情報をたっぷり教えてもらった!
Q1 「セックスレス」を理由に離婚はできますか?
【森上先生の回答】不貞行為とは違い、レスを理由に離婚するのは難しい
Andrii Yalanskyi/Shutterstock
「端的に解答すると、難しいです。裁判所にも、夫婦関係において性生活がとても重要なものだという理解はあるのですが、それだけで離婚が認められる事由にはなりません。その理由の一つに、セックスレスでも円満な関係を築いている夫婦が、世間には多数いることが挙げられるでしょう。
日本で裁判所が離婚を認める理由は、民法770条の1項にて以下の5点が定められています。
①配偶者に不貞な行為があったとき。
②配偶者から悪意で遺棄されたとき。
③配偶者の生死が3年以上明らかでないとき。
④配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。(※)
⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
※④は令和6年5月24日公布の改正により削除予定。施行日未定。
セックスレスが原因でパートナーが不倫関係を持った場合は、①の不貞行為に当てはまり、真っ当な離婚の理由として認められます。しかしセックスレスのみを理由とする場合は、⑤に当てはまるかどうかがポイントに。
過去を遡ったところ、セックスレスが原因で離婚した夫婦で、妻から夫に対する慰謝料請求が認められた事例はありました。妻は妊娠を望んでいましたが、結婚して数カ月ほど経っても、夫が性行為に応じてくれずに離婚したそう。そのように、子どもが欲しい妻に非協力的であることが証明された場合は、裁判官も考慮してくれる可能性があるかもしれません」(森上先生)
Q2 「セックスレス」を離婚理由の一つにあげたいとき、準備することや用意しておくべき証拠はありますか?
【森上先生の回答】第三者に相談した履歴はいい証拠ですが、一番有効なのは別居
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「家庭内暴力や不貞行為がない場合に、裁判所に離婚を認めてもらう、最もオーソドックスな方法は別居です。婚姻関係が破綻しているかどうかを裁判所が見極める際に、別居期間の長さが大きな判断材料となり、先ほど挙げた民法770条1項の⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき、として認められる可能性が高まります。
婚姻関係が破綻している証拠となる別居期間は、婚姻期間によっても異なりますが、3年~5年が目安と言われています。他国には“別居を1年間していたら離婚を認める”と法律で定められている国もありますが、そもそも日本は、そういった法律がありません。
とはいえ、特にお子さんがいれば何年も別居するのは金銭的にも精神的にも困難ですし、将来的に子どもが欲しいという場合は、数年間の別居期間を踏まないと離婚できないとなると女性にとってリスクが高すぎますよね。
パートナーに性行為を拒まれ続けたことによる精神的、および身体的ストレスを理由に裁判を起こすためには、カウンセリングや心療内科を訪れた履歴を提出すると、よい証拠になると思います。夫婦関係を改善するために努力していたことや深刻に悩んでいたことを示せるからです。
パートナーと何度も話し合いを重ねてきたことも努力の一つとして認められますが、それを立証するためのデータが必要。録音した音声データを提出することも多いのですが、会話を録音するのは精神的な負担になりますよね。今はLINEでの会話も証拠になりますので、LINEのデータを保管しておくことを推奨します」(森上先生)
Q3 夫のセックスに応じなかった結果、夫が不貞行為に及んだ場合。妻にも責任があるとみなされ、もらえる慰謝料は少なくなりますか?
【森上先生の回答】一概には言えず、夫婦関係が破綻していたかどうか、が争点に
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「このような事例で妻に責任が認められる可能性は低いと思います。そもそも裁判所がセックスレスのみで婚姻関係が破綻していると認めるとは考えにくいです。そのため、当然“妻に性行為を拒まれたから、仕方なく不貞行為に至った”という主張も認められない可能性が高いです。
しかし、可能性はゼロではありません。その理由は、慰謝料の金額を査定する際、不貞が発生する前の夫婦関係も大きな判断要素になるからです。家庭内別居状態であったことが証明された、別居中に夫の不倫が発覚したといった場合のように、夫婦関係がほぼ破綻している状態での不貞に対する慰謝料は、請求が認められなかったり、通常よりも請求できる金額が下がる可能性があります。
また、過去に夫からセックスレスの不満を訴えられていたり、夫のセックスを何度も拒んだりしたことがあるのならば、少し注意した方がいいかもしれません。それらのを証明するLINEなどの履歴が残っていると、セックスレスが夫婦関係の悪化につながったと裁判所で認められ、慰謝料が軽減されることがあります。
ちなみに不貞行為には、性風俗店の利用も含まれます。夫婦にはそれぞれ貞操義務があるため、他人と性行為に及ぶことは、相手が商売であった場合においても認められません。また、たとえ夫婦間で『お互いに他人と肉体関係を持っていい』と合意を交わしていたとしても、裁判所では公序良俗に反する合意として無効と判断され、不貞行為に対する慰謝料請求や離婚請求を防ぐ合意として有効ではないとされる可能性が高いため、注意は必要です。極端な例ですが、合意があった場合でも殺人が認められないのと同様の倫理観によるものです。
とはいえ、恋愛感情のある不倫関係とは違い、風俗店で働く女性に慰謝料請求できる可能性は低いです。継続的にリピートしていて、かつ、店の外でも会っていて、夫だけでなく女性も恋愛感情を持っている場合、慰謝料請求をできる可能性が上がります」(森上先生)
夫婦、カップル間の話し合いで納得できない時は、遠慮なく第三者の力を借りてみて!
「同じ30代の女性として、セックスレスの悩みは他人に相談しにくく、当事者の方たちはとても辛い思いをしているのではないかと想像します。意を決してパートナーに打ち明けたとき、相手がきちんと話し合いに応じてくれないと、気持ちを踏みにじられたように感じますよね。
夫婦としての話し合いで、双方が納得できる折衷点を見つけられない場合は、もっと根本的な問題が潜んでいることが多いんです。セックスレスの不満を発端に心のキャパが狭くなり、パートナーの良いところが見えなくなってしまったり、自分を責めてしまったり、悪循環になってしまう可能性もあるので、ひとりで悩み続けないでくださいね。
お友達に聞いてもらうだけで気持ちが楽になりますし、カウンセラーの方を交えてパートナーと話し合いをするのも良いと思います。弁護士として様々なご夫婦の相談に乗っていて思うのは、お互いの理想の夫婦像をぶつけ合うのではなく、それぞれの夫婦に応じて二人のあり方を見つけられることがベストなのかな、ということ。難しいテーマではありますが、周りの力を借りながら、良い解決策を見つけられることを願っています」(森上先生)
取材・文/中西彩乃