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追いかける女から待たせる女へ。令和のヒロイン像とは

エンタメ

あなたには、夢中になった恋愛ドラマがありますか? 泣いて、笑って、キュンキュンして、エネルギーチャージした、そんな思い出の作品が。この企画では、過去の名作を恋愛ドラマが大好きなライター陣が、当時の思い出たっぷりに考察していきます。

※この記事にはドラマ『恋はつづくよどこまでも』結末のネタバレが含まれます

佐藤健が演じる“魔王級のドS医師”が多くの視聴者の心を掴んだ『恋はつづくよどこまでも』(以下、『恋つづ』/TBS系)は、令和のラブコメブームを牽引した恋愛ドラマと言っても過言ではないだろう。

“魔王”というあだ名がつくほどドSなツンデレ医師・天堂浬(佐藤健)と、その魔王と恋をするべく奔走する“勇者ちゃん”ことドジっ子ナース・佐倉七瀬(上白石萌音)の織りなす甘い恋を描いた本作。

ドSやドジっ子というキャッチーなキャラクターでラブコメの王道を走りつつも、七瀬のナースとしての成長を描く“お仕事ドラマ”としても見応えのある作品となった。

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キュンだけじゃない。『恋つづ』が描くヒロインの成長

現代の日本において、雇用形態こそ違えど、多くの女性は長期間に渡って働き続けることを念頭に置いているだろう。

国勢調査によると2015年時点での共働き世帯の割合は全体の64.4% (※1)に上る。この数字が今後も増えつづけることになれば、ドラマにおいて「恋愛と仕事を両軸で頑張る女性」の姿を描くことは、応援や共感に繋がりやすくなるだろう。

実際、恋愛×お仕事ドラマを得意とするTBS 火曜ドラマ枠は『恋つづ』のヒット後にも、『私の家政夫ナギサさん』や『オー!マイ・ボス!恋は別冊で』など数々の作品を世に送り出し、そのどれもが根強い人気を誇っている。

その中でも『恋つづ』はヒロインのナースとしての成長をしっかり描ききることで、キュンだけではなく、仕事へのモチベーションやパワーをもらえる作品としても広く支持されたように感じる。

原作コミックスから変更した“とある設定”

加えて注目したいのは、本作の脚本家・金子ありさが、原作となる同名コミックスの“とある設定”を大きく変えて描いたことだ。

それは、物語のラストを盛り上げる「留学」にまつわるパート。この設定を大きく変えたことで、作品の印象はガラリと変化し、ドラマ版で描いたヒロイン像をよりくっきりと浮き上がらせた。

原作ではドS医師・天堂が留学することになっていたが、ドラマ版では天堂ではなくヒロインの七瀬が海外看護留学し、ひとまわり成長して帰ってくるという物語へ。

はじめこそ、ナースを志した理由や仕事へのモチベーションなど、全てが「天堂」一色だった七瀬だが、働く天堂の背中を追いかけるうちにいつしか仕事への意識が高まっていく。

そしてついには「看護師としてもっと成長したい」という思いに突き動かされ、天堂を日本に待たせたままスウェーデンへと旅立つことになるのだ。

「お前、向こうで浮気するなよ」とドSの天堂に言わせるほどになった七瀬は、そんな天堂に「バーカ!」と切り返す。これまでの関係性を想うほど、このやりとりが引き起こす“キュン”の威力に圧倒されるだろう。

追いかける女から待たせる女へ

留学する人物を天堂から七瀬へと置き換えたことで、より強くヒロインの成長劇にフォーカスした脚本の妙は、恋も仕事も両方を頑張りたい現代の女性たちにとって前向きなサクセスストーリーとして強く受け入れられた。

「追いかける女から待たせる女へ」と変化を遂げた七瀬の“ヒロイン力”は、七瀬を愛嬌たっぷりに演じた上白石萌音の魅力も相まって見事な化学反応を起こす。

本作が広く愛された理由のひとつには、そんなヒロイン力の強さも関係しているのだと感じた。

恋愛ドラマブームが続く今、数ある作品のヒロインからもらうパワーは毎日を優しく後押しする。ちょっと背筋を伸ばしたい日にこそ、恋愛ドラマが力になってくれるだろう。

(※1)総務省「平成27年(2015年)国勢調査」より

(文:Nana Numoto、イラスト:タテノカズヒロ、編集:高橋千里)

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