浮世絵師たちが愛した江戸を、今も変わらぬ地形から感じる展覧会『江戸の凸凹―高低差を歩く』。
今、東京の地形に着目した新しいアプローチの街歩きの本が、書店に続々と登場している。東京スリバチ学会会長・皆川典久氏の著書『東京「スリバチ」地形散歩』シリーズをはじめ、『タモリのTOKYO坂道美学入門』、松本泰生氏の『東京の階段』など。確かに自分の暮らす町について、丘はどんな地層で形成されているのか、幼い頃に遊んだ川はどこに続いているのか…その成り立ちを知ると、地域に対してさらに愛着が湧くのも事実。そんな話題に好奇心をくすぐられるあなたに、ぜひともおすすめしたい展覧会がこちら。
東京は、西に武蔵野台地が、東には東京低地が広がる。坂道や階段も多く、高低差を感じながら散策するのも楽しい都市だ。その感覚は、150年以上前に住んでいた先人たちもどうやら同じだったらしい。江戸時代に描かれた浮世絵の風景画を眺めてみると、歌川広重をはじめとする絵師たちも、しばしば地形の高低差を意識した構図で江戸の町を描いている。すっかり変貌した現在の東京と江戸の街並みでも、高低差や坂道などの地形は、ほぼ変わらない。
そこで本展では、浮世絵に描かれた江戸の地形、特に高低差に焦点を当てた浮世絵を80点以上紹介。愛宕山や駿河台などの山や台地、神田川など河川の周囲に広がる谷、築地や深川などの水辺に広がる低地、江戸見坂や九段坂などの坂。昔と変わらない地形を眺めつつ、古き良き江戸散歩を追体験できる。「ここはあの広重も愛した江戸の地形なんだ」と思えば、街歩きがさらに感慨深く、楽しくなることは間違いない。
歌川広重「名所江戸百景 昌平橋聖堂神田川」
御茶ノ水にある昌平橋。正面に神田川が流れ、右手に湯島聖堂、左手には切り立った崖があるこの絵は東京屈指の高低差に富んだ風景。会場ではこの絵の横に現在の昌平橋を写した写真を並べて展示する。
歌川広景「江戸名所道外尽 廿八 妻恋こみ坂の景」
妻恋神社へ向かう途中にある現在の立爪坂の風景。
歌川広重「東都名所 御殿山花見品川全図」
江戸時代から花見の名所として有名だった御殿山の春模様。
『江戸の凸凹―高低差を歩く』 太田記念美術館 東京都渋谷区神宮前1‐10‐10 6月1日(土)~26日(水)10:30~17:30(最終入館は17:00まで) 月曜休 一般700円ほか TEL:03・5777・8600(ハローダイヤル)
※『anan』2019年6月5日号より。文・山田貴美子
(by anan編集部)