時代を彩るエンターテインメント作品の数々。そのつくり手たちをおさえておけば、最先端の流行もわかる。映画プロデューサー・宇田充さんが、今まさにチェックするべき新星を紹介!
野心をしっかり持っている人。それがブレイクする条件です。
人気の映画を多数プロデュースしている宇田充さん。業界内外の映画好きの人たちから、気になる監督や脚本家について情報収集し、多くの作品を鑑賞しているそう。
「気になる人のリストは、常に30~40人程度は持っています。おもしろそうだと思った人には直接会って、どんな作品を撮りたいのか、何に興味があるか、などを聞きます。作品の内容も大事ですが、ブレイクするかどうかは、野心と強い生命力を持っていることが重要。蜷川実花さんも、写真に惹かれてお会いしたのですが、良い意味で非常に野心溢れる人です。それがあるからこそ、写真家としてはもちろん、監督としても人としても成功したのではないでしょうか」
青くてエモく、でもドライな感じ。そこが新鮮でイイ。
二宮 健
勢いと青さ、異様なぶっとばし感もある作風が最高。最初に観たのが高橋一生さん出演の『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY』。日本映画の王道とされる、余韻やリアクションを長めに映す、といったことがなく、カット尻が短いところが特徴ですね。ガンガン入れ食いで映像を編集していく、そのアグレッシブな感じが心地よい。ちょっと暴力的で派手なんですが、繊細な心の描写が細い糸のようにずっと繋がっているような印象があって、なんでしょう、非常にエモかった。感情を動かす力があるというか。疾走感のある、カラッとした青春モノとかを撮ってほしいです。日本でできる監督は少ないので。
『チワワちゃん』 マンガ家・岡崎京子の同名マンガを実写化。“チワワ”と呼ばれた女性のバラバラ遺体が発見された。残された仲間が彼女について語るが、誰も本名を知らず…。主演は門脇麦。DVD&Blu-ray発売中 発売元:東映ビデオ 販売元:東映 ©2019『チワワちゃん』製作委員会
二宮 健 1991年生まれ、大阪府出身。10代から映画を撮り始め、‘15年に大阪芸大の卒業制作で撮った『SLUM-POLIS』が話題を呼び全国で公開された。代表作に『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY』(‘17)が。
物語の後ろにある“時代”を映し出す。
藤井道人
自分でオリジナルの脚本を書き、監督もするという、いわゆる“王道”的な監督です。社会的なテーマに興味がある印象がありますが、物語の裏にある“時代性”のようなものに惹かれているのかな、と思います。作風は、カット数が少なくじっくり丁寧に撮るタイプ。そして光の使い方が上手く、とても画がキレイです。どこかノスタルジックな雰囲気が漂うルックも魅力だと思います。『デイアンドナイト』は、ラストシーンの演出に、監督としての自信を感じました。社会派みたいなことを突き詰めてエンターテインメントに昇華するような、ちょっと昔の作品ですが『バベル』的な感じのものを撮ってほしいです。
『デイアンドナイト』 俳優・山田孝之がプロデュースを手がけたオリジナル映画。父の自死をきっかけに帰郷した主人公。善と悪はどこから来るのかを描く。主演は阿部進之介。©2019「デイアンドナイト」製作委員会
藤井道人 1986年生まれ、東京都出身。日大藝術学部映画学科卒業後、伊坂幸太郎原作の『オー!ファーザー』(‘14)でデビュー。シム・ウンギョン、松坂桃李W 主演の社会派サスペンス映画『新聞記者』が6/28公開。
フィジカルで感覚的。言葉にならない感情を画にできる才能です。
山田智和
音楽やファッション業界、役者さんから、「この人と仕事をしたい!」と、今一番名前が挙がる映像作家。一眼レフで自主映画をつくり始めた第一世代だと自認されており、手持ちで、深度の浅い美しい映像を感覚的に撮っていくので、仕上がりがとてもエモーショナルなんです。古い例えで恐縮ですが、香港の映画監督ウォン・カーウァイのカメラマンをしていたクリストファー・ドイルを彷彿とさせます。まだ劇場映画は撮っていませんが、楽しさ、切なさなどの感情を、言葉を使わず映像で描ける才能の持ち主なので、ぜひ恋愛映画を撮ってほしい。ベタな設定でも、彼が撮れば全然違うものになる気さえします。
KID FRESINO「Coincidence」 雪が降った東京・新宿の街を、KID FRESINOがラップをしながら歩いていく姿を映した幻想的なビデオ。交通量の少なさゆえ、車道の真ん中でラップをしている姿が印象的。
山田智和 1987年生まれ、東京都出身。日大藝術学部映画学科出身。あいみょんや、サカナクション、米津玄師、ゆずなどのMVを監督。「SPACE SHOWER MUSIC AWARDS 2019」でBEST VIDEO DIRECTORを受賞。
識者・宇田 充さん 映画プロデューサー。代表作に『ヘルタースケルター』(‘12)、『陽だまりの彼女』(‘13)が。7/5より蜷川実花監督、藤原竜也主演『Diner ダイナー』が、9/13には『人間失格 太宰治と3人の女たち』が公開。
※『anan』2019年7月3日号より。取材、文・河野友紀
(by anan編集部)