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夢をあきらめない! ダコタ・ファニング主演最新作『500ページの夢の束』

誰もが人生において、叶えたい夢の1つや2つを胸に秘めているもの。とはいえ、新たな一歩を踏み出す勇気が出ないと怖気づいてしまうときもあるのでは? そこで今回オススメしたい映画は、夢に向かって歩き出す少女を描いた物語です。それは……。

応援せずにはいられない感動作『500ページの夢の束』!

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【映画、ときどき私】 vol. 187

自閉症を抱え、唯一の肉親である姉とも離れて暮らしているウェンディ。何よりも『スター・トレック』が大好きで、その知識なら誰にも負けないほど。一番の趣味は、自分なりの『スター・トレック』の脚本を書くことだった。

そんなある日、『スター・トレック』の脚本コンテストが開催されることを知ったウェンディは、渾身の1本を書き上げる。しかし、郵送では締切に間に合わないと気がつくと、愛犬ピートとともに、数百キロ離れたハリウッドまで旅に出ることを決意。500ページにもわたる脚本に込めた思いとは……。

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本作は新たな世界にチャレンジした経験のある人なら、誰もが自分と重ね合わせ、心の奥が温かくなる感動を味わえる映画ですが、今回は現場での様子や作品に込めた思い、そして自身のことについて、人気ドラマ『アリー my Love』や映画『セッションズ』を手がけたベン・リューイン監督(写真・中央)に語っていただきました。

ダコタとの仕事は自分にとってもベストな経験

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―今回ウェンディを演じた元天才子役のダコタ・ファニングは、これまでにないような役柄を見事に演じていますが、彼女と現場をともにしてみてどのように感じましたか?

監督 ダコタとの仕事は、自分が俳優を演出してきたなかでもベストな経験。彼女は数多くの作品に出演しているベテランの女優でもあるから、その経験を発揮してくれたと思うよ。

それから、これはいまの若い俳優の傾向のようだけど、自分の心の中に思いっきり飛び込むことがすぐにできるんだ。そういった俊敏さと柔軟さという2つの要素を生かしてくれたんじゃないかな。それは年を重ねた役者にはなかなかできないことなんだよね。

だから、今回の彼女は技術力と感情にアクセスできる才能とが合わさった素晴らしい演技をしてくれたと思っているよ。それに、現場での振舞いもすばらしくて、「自分はあくまでもチームプレイヤーのひとりなんだ」という意識でいてくれたから、いわゆる「私はスターよ」みたいな素振りは一切見せずにやってくれたんだ。

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―ダコタとのやりとりで印象に残っていることはありますか?

監督 ウェンディの日課を撮っているシーンは、けっこうロングテイクだったからすごく思い出に残っているよ。というのも、普通は監督が「カット!」と言って終わらせるんだけど、かなり長いシーンだったから、僕はいびきをかく振りをした。

そしたら、ダコタがケタケタと笑ってくれたんだ。そんなふうに冗談をお互いに言い合いながら、楽しく撮影することができたんだけど、通常の撮影現場というのはみんなかなりストレスを抱えているもの。だから、今回のようにストレスなく楽しくできたというのは、なかなかない経験でもあったね。

―主演女優としても、現場を盛り上げてくれていたのですね。

監督 ダコタは、まだ24歳という若さだけど、ものすごい才能とギフトを持った女優だと僕は思っているよ。今回の映画も、彼女ひとりのエネルギーで見事に担いでくれたと感じているんだ。

すごく変わった犬だけど「うまくいく」と感じた

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―今回、ウェンディの相棒でもある愛犬ピートの演技も素晴らしかったですが、どのようにして演出したのでしょうか?

監督 撮影日数も予算も限られているなかで、赤ちゃんも犬も使わないといけなかったから、最初は「この現場は障害物競走みたいだな」と思っていたくらい(笑)。だから、一時は犬を使うのをやめようかという話にもなりかけたんだけど、いろいろな犬を見ていくなかで、「この犬とならうまくいくかもしれない」と感じたんだ。

それは、自分の世界のなかで生きているような、すごく変わった犬。しかも、ウェンディと同じようにちょっと自閉症っぽいところもあったんだ。もちろん、調教師が優秀だったこともあるけど、こうやってほしいと伝えれば、ちゃんとやってくれるし、僕自身も今回は犬の演出について多くを学ぶことができたよ。

念のためもう1匹用意していたけど、使う必要もなかったね。それにしても、あんなに小さいのに、ものすごく食いしん坊でそれには驚いたよ(笑)。

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―ウェンディは不安を抱えながらも、自らの夢のために一歩を踏み出しますが、監督も過去には、刑事弁護士から映画業界へ転身するという異色のキャリアをお持ちです。そのときの思いや経験を反映したところもありましたか?

監督 新しい領域に踏み込んでいくとき、誰もが知らないものに対する恐怖心というものを抱えているものだよね。でも、今回僕がウェンディに一番共感できたのは、脚本家同士という感覚のほうが強かったかな。つまり、自分のことを表現することがどれだけ大変なことなのかということ。

ウェンディが脚本を届けるシーンでは、ダコタが名演技をしてくれたけど、あの芝居を見て、皮肉っぽいところがある僕でさえも思わず目に涙を浮かべてしまったくらいなんだ。それくらいあのセリフは直に伝わってくる言葉なんだよね。だから、ウェンディが経ていく過程に一番訴えるものを感じたといえるかな。

監督に影響を与えた映画とは?

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―劇中では、『スター・トレック』がウェンディの救いとなりますが、これまで監督にとって救いとなった映画はありますか?

監督 救いというよりは、人間としての在り方や映画作家としての在り方を教えてくれた映画を3作挙げようかなと思うけど、まずひとつめは『第三の男』(49)。少ない予算でも名作を生み出すことができるという映画作りのすばらしさを教えてくれた作品だと思っているよ。だから、いまでも記憶に深く刻み込まれている映画なんだ。

2作目は、イタリア映画の『イル・ポスティーノ』(94)。それまでの僕は西部劇などの映画ばかりを観ていて、人々の普通の日常生活を描いた映画というのをあまり観ていなかったんだ。でも、この作品では、はじめて職に就くある青年の物語を描いているんだけど、そういったなんてことない人々の日常を映画にすることができるんだということを教えてくれたよ。

そして最後は、『ミツバチのささやき』(73)なんだけど、子どもの視点から描く世界がすばらしくて、これもすごく印象に残っているんだ。とはいえ、僕は日本のゴジラシリーズも大好きだよ。あとは、体に悪いんだけど食べちゃうジャンクフードみたいな映画とかも実はけっこう好きなんだ(笑)。

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―前作の『セッションズ』では病気で体に障害を負った男性を描き、今回は自閉症の少女を描いていますが、監督も幼少期にポリオを患った経験があるだけに、そういったところをご自身の映画作りのテーマとして追及していきたいという思いがあるのですか?

監督 自分が手がけた長編は6作品のうち3作品は障害を負った人たちにフィーチャーしているから、そういう傾向にはあるし、共通するテーマとして、根底にあるのかもしれないね。というのも、やっぱり自分の作品から自分を切り離すことはできないし、どうしても自分が出てきてしまう部分があるからね。

でも、言ってしまえば、みんなある種の “障害” を背負って生きているんじゃないかな。たとえば、「エンターテインメント業界で働きたい」というのもひとつの病気みたいなものだとも言えるしね(笑)。だから、答えとしては、それがすべてではないから、イエスでありノーでもあるということかな。

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