学び方にはいろんな種類があるものの、いちばん手軽にスタートできるのは読書。バイラ世代にとっては尽きない悩みが「働き方」。優しく、ときには現実も教えてくれる本を読書の達人がチョイス。
たくましさを取り戻すために
『何もしない』
ジェニー・オデル著 竹内要江訳 早川書房
生産性を高めるためには? より共感してもらうには? そんなことばかりに向かわせる社会に疑問を持った著者が、「何もしない」行為で得られるものや気づきを語ります。難解な芸術論もありつつ、働き方を見つめ直す上では前書きだけでも読む価値ありです。なんか疲れたな、という日が続くときにこの本の内容を思い出すと、心が楽になるかも。そういうこともひっくるめて、現代をたくましく生きる力を与えれくれます。(鈴木美波さん)
職場恋愛はどう変化してきたか
『なぜオフィスでラブなのか』
西口想著 POSSE叢書
1984年生まれの著者は、「私たちは、七〇〜八〇年代に出会いの主流となったオフィスラブによってこの世に生を受けた、いわば『オフィスラブ時代の子ども』なのである」と書きます。自分は1982年生まれ。両親は違う会社で働いていたけど、会社近くの英会話スクールで出会ったはず。現代の小説の中で、職場恋愛がどのように描かれてきたかを分析するこの本からは、働き方やジェンダー意識の変化が浮き上がってきます。(武田砂鉄さん)
効率化を超えた偉人の働き方
『天才たちの日課 クリエイティブな人々の必ずしもクリエイティブでない日々』
メイソン・カリー著 金原瑞人他訳 フィルムアート社
本書では過去400年間の偉人たちが、どのように執筆をしていたか、また最高の仕事をするために、毎日の時間をどうやりくりしていたかが書かれます。バックボーンにあるのは「創造性を高めて生産性をあげるため」に、限られた時間をどう過ごすか、という問題。しかしそれが、必ずしも生産性の高さや効率のよさと結びつかないのは確かなこと。破滅的なやり方も含め、時代をつくった偉人の働き方の一端が読み取れます。(森岡督行さん)
幸せのかたちとはなんなのだろう
『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」 タルマーリー発、新しい働き方と暮らし』
渡邉格著 講談社+α文庫
鳥取のパン屋さん・タルマーリー。経営者は東京出身の夫婦ですが、修業時代に労働環境と防腐剤に疑問を持ち、現在の地でパン作りを始めます。仕事は一度流れができると、根本に立ち返るのを忘れて、効率化と利潤の追求に躍起になりがち。でもこの本から、何が本質か、そして何が幸福かを問う大切さを知ることができます。仕事と暮らしを切り離しすぎないことで、むしろ心身のバランスをとる考え方もいいです。(江南亜美子さん)
働き方は人それぞれ
『「やりがいのある仕事」という幻想』
森博嗣著 朝日新書
出版されたのは2013年。10年近く前ですが、今読んでも色あせない一冊です。働くことについて考えるのは本当に難しくて、しかも多方向にアドバイスがあり、すべてをうのみにすると身動きが取れなくなる。作家でエッセイストの森博嗣さんのこの本は、今までとは別の視点と諦観から、「あるべき働き方」論を次々なぎ倒しているところが魅力。悩んでいるときほど視野は狭くなりがちなので、そんな場合に読んでほしいです。(花田菜々子さん)
撮影/kimyongduck 取材・原文/石井絵里 ※BAILA2022年2月号掲載