これまで500回以上、働く世代の皆様向けに資産運用のセミナーでお話ししてきましたが、よくお伺いする質問があります。「投資はいつ始めればいいのですか?」です。
「投資は余裕資金ができてから」、とお答えしているのですが、では具体的にどのくらいの金額があればいいのでしょうか。
まずは、自分の財布のお金を3つに分けることからはじめます。それは「生活費」と「近いうちに使うお金」と「緊急時に使うお金」です。
1.近いうちに使うお金
近いうちに使うお金としては、今後1年くらいで想定されるライフイベントを想定してみてください。
例えば「3カ月後に友達と旅行に行く」「洗濯機を買い替えたい」「結婚にあたって引っ越しをする予定」「家を買うための頭金が必要」などなど、家族構成やライフスタイルによって異なると思いますが、それがおおよそ「近いうちに使うお金」のイメージです。
月々にかかる費用とは別に、一時的に必要となる大きな出費だと考えてみてください。
2.緊急時に使うお金
緊急時に使うお金は、失業や大きなけが、災害、病気など、不測の事態に備えて万が一のために備えておくお金のことです。保険でカバーできる範囲もありますが、例えば突然入院することになって、手元にまとまったお金が必要になるかもしれません。医療費が高額になった場合は、一部が払い戻される制度はありますが、一時的な出費に対応できるようにしておくとよいでしょう。
会社員であれば生活費の3~6カ月分、自営業の方であれば1~2年分を手元に置いておくことが望ましいです。
会社員は病気やケガ、失業のときに傷病手当金や失業保険の制度を使えますが、自営業の場合はそうした保障が少ないため、手元のお金を厚めにもっておくと安心です。
緊急時に備えて貯金をしておくと、「もし何か起きたらどうしよう」といった漠然とした不安からも解放され、心にゆとりも生まれます。
冒頭で、自分のお金を「三つに分ける」とお伝えしました。このお金を確保するための最初のステップは、家計を黒字にすることです。自分が月々何にいくら使っているかを知り、必要であれば固定費を見直します。
3.自由度の高いお金「余裕資金」
次のステップとしておすすめするのは、「先取り貯金」です。貯金用の口座を別に作って、「近いうちに使うお金」と「緊急時に使うお金」を少しずつ貯め、残った分で生活費のやりくりをする方法です。
「生活費」のほか、「近いうちに使うお金」と「緊急時に使うお金」を確保したあとに残るお金が、他のお金に比べて自由度の高い、いわゆる「余裕資金」になります。すぐに使う必要がないお金なので、将来のための投資に回すことができます。
投資を始めるのは「余裕資金ができてから」とお伝えしているのには、理由があります。
例えば、余裕資金がないままお金を投資に回してしまっていて、急な入院でお金を引き出さないといけなくなったとします。その時の市場の状況次第では、引き出したお金が投資したお金を下回っているかもしれません。損をしてしまうのはもったいないですし、心の余裕もなくなります。
何か月分もの生活費を貯めるのは大変です。「それだといつになっても投資ができない!」と考える方も多いかと思います。それでも、焦って始めるより「余裕資金」を作ることのほうが大切です。
経験を積む投資なら早めのスタートもOK
ただ、投資の経験を積むために「少額から始める」のはよいと思います。今は数千円~1万円から積み立てを始められる投資もありますし、ワンコインで始められるものもあります。
その場合は、資産形成ではなく「投資の経験をする」ことが目的になります。失敗をしても損失は小さくて済みますし、自分のお金と経済の動きがどう絡んでいくのかを体感する場、と考えてください。
本格的な投資は、10年以上かけてじっくりと資産を増やすことです。そのお金は「余裕資金」で始めましょう。
お金と正しく付き合っていくにあたり、自分がいつ、何にどのくらいお金が必要になるのかを考えておくことはとても重要です。
投資は今すぐ、焦ってスタートしなくても大丈夫。まずは自分のライフプランを考えるところから始めてみてはいかがでしょうか。
※この記事は2023年03月30日に公開されたものです