こうしたい、こうなりたいと理想はあっても、そのために努力するのは面倒くさい。誰もが心に秘めている、虫がよすぎるホンネの数々。その身勝手さをおちょくりつつも、実は“何もしないこと”が我が身のための大英断なのだと正当化してくれる、敗残者救済コラム集が『やらない理由』だ。著者は、いまや自虐の神として『cakes』をはじめ、ウェブメディアやSNS、コミック誌などで20本近くの連載を抱える人気作家のカレー沢薫さん。
「何かを始めようと思ったり、実際に始めてみたりしても、だいたい途中で投げ出すのが人間。挫折すれば、誰でも反省し、自己嫌悪に陥るものですが、大抵の人は反省もどきしかしていないと思います(笑)」
カレー沢さん曰く、
「落ち込んで終わりなら、ウジウジしている分だけ、時間のムダだし、目標がクリアできることが必ずしもいいとは限りません。たとえば、痩せたらいいことありそうとダイエットを始めても、物理的には痩せたのに好転しなかったら、打つ手がない。ならば、延々と失敗し続けて、一生『痩せたら幸せになれる』という希望のアメを舐め続けたほうが幸せ。あるいは、中途半端にやめてしまった自分をダメなやつと非難せず、無駄なことをせずにすんだ自分は『判断力に長けていたのだ』と、自己肯定にまで持っていければ成功です」
連載に当たっては、編集者がお題を振り、やらない言い訳をカレー沢さんがコラムに書く形式をとった。
「前にも似たネタをやったなあと思うことが何度かありましたが、言い方を工夫して乗り切ったり…。でもたまに『それはただのわがままではないか』『さすがに人としてどうか』というテーマも交じっていて(笑)。不倫など弁護できないネタのときは、率直に“自分のためにしないほうがいいよ”という論調で書いた回もあります」
どんなむちゃ振りにも応えてしまうそのサービス精神が、笑いを生む。
「そもそも、好きなことを何でも書いていいと言われても、言いたいことはない。むしろこういうテーマで書いてくれと無理難題を出されるほうが、詭弁を弄するかいがあります」
『cakes』では有料会員向けに刊行記念のスペシャルインタビューも掲載中。そこでは、人生初の自作ラップ(!)も披露している。また、ブス論第2弾となる新刊『ブスのたしなみ』も好評。併せて楽しんで。
かれーざわ・かおる OL 兼マンガ家、コラムニスト。2009年、『クレムリン』でマンガ家デビュー。’11年、『負ける技術』で文筆家デビュー。『ブスのたしなみ』(太田出版)ほか著書多数。
『やらない理由』 <痩せたいが、食べるのを我慢するのは嫌><お金は貯めたいが、節約するのは嫌>等々、身勝手な言い分にも五分の魂、の精神で。マガジンハウス 1100円
※『anan』2018年1月24日号より。写真・水野昭子 インタビュー、文・三浦天紗子