作家・鴻池留衣さんに、著書『ナイス・エイジ』についてお話を伺いました。
表題作では「真実は二の次」の世相を活写。注目新人の処女作品集。
SNS時代のあるあるを、リアリティたっぷりに描いた『ナイス・エイジ』。その著者が鴻池留衣さん。
「自称予言者たちや自称霊能力者たちが未来予想を書き込み、それがネット上の誹謗中傷を呼んで、ネット民にとっての粘着的なコンテンツになっていく…。この作品で描いたことは、ネットの中ではよくある風景。もともとは、安部公房の『人間そっくり』という小説の現代版をやってみたかったという気持ちもあります。ラジオ番組の脚本家のもとに火星人を名乗る男がやって来て、その男の言っていることは真実なのか虚言なのかと、人々が右往左往させられてしまう話なんですが、それって昔もいまも変わらない、普遍的な題材だと思うんです」
インターネットの掲示板に<2112>というコテハン(固定ハンドルネーム)の“タイムトラベラー”が現れた。2112がそのスレッドの「オフ会」に参加すると言い出すと、2112は本当に未来人なのか、本当にオフ会にやって来るのかと、スレの住民たちは大盛り上がり。アキエことAV嬢の絵里は、オフ会で親しくなった自称2112の青年と、好奇心から同棲生活を始めてしまう。絵里が彼の生活ぶりを掲示板に書き込むうちに、事態はみるみる膨れ上がり――。
「現実のネットの炎上も、ほぼこんなパターンですよね。ネット民にとっては、真偽をただす以上に、それを肴にみんなで盛り上がりたいというお祭り感が大切。真実はわかってもわからなくても、どっちでも面白いということなんでしょう」
併録の「二人組み」の主人公は、学校や教師の欺瞞や、それにおもねるクラスメイトたちの偽善を冷ややかに見ている中学3年生の本間だ。
「母に言わせると、本間は中学時代の僕まんまらしいです(笑)」
無口すぎてクラスで浮いている坂本ちゃんに性的関心から近づくが、その思いは少しずつ変容していく。衝撃的なラストシーンは、「最初から決めていました」
最近の小説より、近代小説を多く読んできたという鴻池さん。「いちばん好きなのは谷崎潤一郎で、リーダビリティのお手本にしているのは夏目漱石です」
次にどんな球を投げてくれるのかが楽しみな、気鋭の書き手の登場だ。
こうのいけ・るい 作家。2016年に小説「二人組み」で新潮新人賞を受賞、現在は、出版社でのアルバイトと作家業との二足のわらじ。月刊文芸誌『新潮』で新作を発表する予定。
<時間旅行者をもてなすスレ>の住人たちは、未来人を名乗る<2112>の正体を突き止めようとし…。男女中学生の心理に迫る「二人組み」併録。新潮社 1600円
※『anan』2018年4月4日号より。写真・土佐麻理子(鴻池さん) 大嶋千尋(本) インタビュー、文・三浦天紗子
(by anan編集部)
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