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育休から復職するときに男性たちが経験したこと。パパ版「マミートラック」も

子育て

2022年10月1日に「産後パパ育休」がスタートし、制度上は男性も育児休業をより取得しやすくなりました。OTEMOTO編集部がはじめた企画「#育休革命2022」では、新たな時代の育休のあり方を探るためにアンケートと取材を実施。育休を経験した人たちからは男女ともに、育休のメリットだけでなく、復職したあとの生活やキャリアに関する意見が多く集まりました。

半年間の育休を取得した会社員のサトシさん(30代、仮名)は、「育休を取得するハードルは低かったのですが、復職にあたっては心配がありました」と話します。

人員調整がつきやすい職場だったため上司に育休を切り出すのはスムーズだったものの、悩んだのは取得期間。長く休んだら元の職場に戻れなくなるのではないかという懸念がありました。

「元の職場に戻れれば、慣れ親しんだ環境でリハビリしながら働くことができます。復職前から定期的に同僚と連絡を取るなどして、会社で起こっていることや変わったことを知っておくだけでも、心の準備がしやすくなると思います」

しかしサトシさんは結局、復職後に転職することにしました。育児と両立しやすい働き方を望んでいたのはもちろんですが、同時に「子どもに誇れる父親になりたい」との思いが芽生え、もっと難易度の高い業務に挑戦してキャリアの幅を広げたいと考えるようになったからです。

サトシさんのケースからは、会社は単に休みやすい環境を整えるだけでなく、社員に長期的なキャリアのビジョンを見せられるかどうかも問われていることがわかります。

Adobe Stock / kazoka303030
Adobe Stock / kazoka303030

半年間の育休を取得した男性(40代)も、復職のときに「浦島太郎」にならないかが心配だったといいます。

「人によると思いますが、一日中子どもとだけ一緒にいて、誰とも話をせず社会と触れ合わない環境はある種のストレスです。その人に合った、心の安定を得るための助けがほしいです。私の場合は、わずか半年の育休中でも会社から定期的な情報提供や面談があったらよかったのに、と思いました」

人それぞれの「壁」

育休から復職した人が職場で直面しがちな壁はいくつかあります。

・育休中に職場環境やツール、人間関係が変わり、業務についていけなくなること。

・仕事と育児を両立する生活のリズムに慣れず、無理をしてしまうこと。

・責任ある仕事ができず「マミートラック」と呼ばれる状態に陥ること。

これらは主な3つですが、どれを壁だと感じるかは、仕事や家庭の状況、価値観によって人それぞれです。上司や同僚は配慮したつもりなのに裏目に出ることもあります。よかれと思って育休明けの人の業務量や責任範囲を減らしたら、本人が仕事のやりがいを見失って辞めてしまったというケースは男女ともに少なくありません。

会社や上司が不適切な対応をした場合、例えば育児を理由にした業務の変更、降格、異動などは、「マタハラ」「パタハラ」と呼ばれるハラスメントとなるケースもあります。

前出のサトシさんは、女性は産後の体調やホルモンバランスの変化、授乳があるぶん負担が大きいとしながらも、男性ならではの悩みを打ち明けます。

「子どもの事情を理由に勤務を調整すると『奥さんがいるんでしょ?』と反応されることが多いです」

そこで、自分の働き方のスタンスを表明することにしました。ミーティングを入れてほしくない時間帯はカレンダーをブロックし、代わりに「定時前」の朝6時〜9時でもミーティングを受け入れるようにしています。新たなプロジェクトに参画するときには「夕方の会議は避けましょう」とチーム全体の働き方改革を提案するようにしています。

「羽を伸ばす」と言って後悔

2022年10月からの新しい育休制度では、男性版産休と呼ばれる「産後パパ育休」がスタートしました。子どもが生まれたあと8週間以内に、2回まで分割できるため、仕事で長期間のブランクを避けたい人でも柔軟に取得することができます。

メーカー研究職のコウさん(30代、仮名)は、2人目が生まれるとしたら「産後パパ育休」を活用しようと考えています。また、妻が育休から復職する前後にも交代して育休を取得することを検討しています。

1人目のときにも約1カ月の育休を取得しましたが、2人目ではより長めに、3カ月から半年間を検討しています。わが子の成長を実感でき、産後の妻のサポートにもなると考えたからです。しかし、フルタイムで働く妻に相談しても、もろ手をあげて賛成しているようには見えません。

「身から出た錆ですが、1人目の育休に入る前に私が『育休中に羽を伸ばすぞ』と発言したことを妻は覚えていました。義母がヘルプにきてくれたこともあってあまり育児に関われなかったので、妻は『戦力にならない』と思っているのかもしれません」

その後、育児の現実を目の当たりにし、復職してからは積極的に育児をしているコウさん。実際に夫婦フルタイムで仕事と育児を両立してみると「”超人”的な努力を要求されているように感じます」。

子どもが2人になるとますます大変になると予想していますが、すでに今も忙しくて余裕がなくなるとつい不機嫌になってしまい、妻に指摘されることもあるといいます。

「妻は私が育休を長くとることでストレスをためるのではと警戒している面もありそうです」

コウさんが育休を希望しているのは、夫婦ともにフルタイムでいったん仕事に復帰すると、ひと息つく時間すらなく生活に余裕がなくなることを身にしみて感じているからです。

「どちらかがワンオペにならないよう、夫婦で話し合って調整するつもりです。それでもやはり大変です。『キラキラ』していない一般的な人たちも共働きしながら子育てしやすい社会になるよう、土日祝日の一時預かりなどの公共サービスも充実させてほしいです」

ワンオペ妻に「静かに」と夫

厚生労働省によると、2021年度の男性の育休取得率は過去最高の13.97%。育休を取得する男性は増えてはいますが、取得しづらい職場も依然としてあります。

OTEMOTO編集部のアンケートでも、夫が育休を取得できず、妻に負担がかかっているという声がありました。

「夫は1週間の育休を取ると口では言っていたものの、仕事が忙しいと言って結局、取得できませんでした」(30代女性)

「妊娠したときに『夫は育休は無理だろうから、自分の仕事はあきらめよう』と絶望しました。自分を頼ってくれている会社に迷惑をかけると思うと、つわりと重ねてさらにつらい気持ちになりました」(40代女性)

「2人目の育休中、在宅勤務の夫に『静かにして』と言われながら、2歳、0歳を1人でみるのがつらかったです」(30代女性)

2022年10月からの新しい育休制度では、夫婦ともに育休を分割して取得できるようにもなりました。夫婦どちらかがまとまった長い休みをとることからより選択肢が広がったため、夫婦で育児とキャリア形成のプランを考えることができ、それぞれの職場への影響を小さくすることにもつながります。

夫婦で育休を2回ずつ

IT企業につとめるサオリさん(30代、仮名)は、4人の子どもを育てています。上の2人のときは自身が育休を取得。下の2人のときは育休は取得せず産休明けで復職し、代わりに夫が3カ月、2カ月の育休をそれぞれ取得しました。

その間に、夫婦それぞれが転職も経験しています。

「夫とはお互いの仕事内容を理解し合える関係です。仕事で実現したいことをパートナーに話せること、まずは話そうと思えることが大事だと思います」

そんなサオリさんも、夫が前の職場にいたときは「相談しても無駄だろう」と育休について話し合わなかったそうです。今でこそ「希望を伝えるだけでもしておけばよかった」と少し後悔していますが、当時は転職活動をしていた夫の状況がわかっていたからこそ控えていました。

「どの会社にも『風土』みたいなものがあります。育休を受け入れられそうな風土なのか、風土がないとすれば夫はそこを突破できそうなポジションなのかを私なりに考えて、話し合いができそうだと思ったタイミングが、夫が転職して落ち着いたあとでした」

それは、2人目を出産したのちサオリさんも転職をした後のこと。仕事にやりがいが生まれ、仕事の時間は集中して、家族の時間は思いっきり子どもたちと向き合うメリハリのある生活ができるようになっていました。

「日々の生活がご機嫌になって、3人目を前向きに考えるようになりました。ただ、1人目と2人目の育休のときに早く復職したかったという経験からも、仕事が大好きなのでなるべく早く復職したいという相談を夫にしました」

そこで、家族全員の満足度や幸福度を上げるにはどうすればいいかという話を夫婦で重ねました。

「3人目のときにはどういう産前産後を過ごせたら、夫婦それぞれのキャリア形成や、上の2人の子どもとの関係がうまくいくのか。客観的な視点から話をしたことでお互いを尊重し合えるようになり、準備万端で3人目を待つことができました」

夫との協力体制によって、仕事をあきらめたくないという希望がかない、3人目と4人目を産むことができたというサオリさん。最近では、職場の男性から育休を取るタイミングについて相談されることもあります。

「私も1人目のときはわからないことが多く、法律や制度の制約があると思い込んでいたこともありました。子育てには多様なスタイルがあり、選択肢は広がっています。家庭によって理想のスタイルを選べ、それを会社や制度が後押しできるとよいなと思います」

著者:
小林明子
OTEMOTO創刊編集長 / 元BuzzFeed Japan編集長。新聞、週刊誌の記者を経て、BuzzFeedでダイバーシティやサステナビリティの特集を実施。社会課題とビジネスの接点に関心をもち、2022年4月ハリズリー入社。子育て、教育、ジェンダーを主に取材。

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