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“スレスレの嫌味”は大人の教養。『エレガントな毒の吐き方』を読んで

仕事、結婚、からだのこと、趣味、お金……アラサーの女性には悩みがつきもの。人生の岐路に立つ今、全部をひとりじゃ決め切れない。誰かアドバイスをちょうだい! そんな時にそっと寄り添ってくれる「人生の参考書」を紹介。今回は、『エレガントな毒の吐き方 脳科学と京都人に学ぶ「言いにくいことを賢く伝える」技術(中野信子著・日経BP)』を、ライターのミクニシオリさんが書評します。

「今週はどうして、こんなに疲れちゃったんだろう」

忙しいのはいつものことなのに、いつも以上に疲れを感じる夜。振り返ってみると、仕事や生活の中で「我慢や気遣いが多かった」ことを思い出す。

仕事のストレスは、そのほとんどが「人間関係」が原因であるようにも感じる。いつも以上に忙しいのに、依頼されたことが断れなかった日。上司の伝え方や仕事の仕方が自分と合わなくても、仕方なく飲み込んだ日。同僚や後輩に対してキツイ言い方をしてしまい、帰宅後に一人反省会した日。一つひとつは小さいことでも「ちょっと嫌だな」を繰り返しているうちに、働くことそのものが嫌になってしまう。

小さなストレスを重ねていく人はきっと、周囲に気が遣えるやさしい人。だけど、やさしいだけじゃ生き残れないハングリー社会。何か一つ武器があれば……そんな時、私が使えるようになった最強の武器は「京都人のまろやかな毒」を含むコミュニケーションだった。

『エレガントな毒の吐き方 脳科学と京都人に学ぶ「言いにくいことを賢く伝える」技術(中野信子著・日経BP)』

【この本を読んで分かること】

・「NOを言わずにNOを伝えること」の重要性
・京都人の「イケズ言葉」の取り入れ方とバリエーション
・「クソリプ」を我慢せず、スマートにいなす方法

断りづらい時に「NO」を飲み込まず、しなやかにいなす方法

職場の人や仕事先の人に言われたことが、引っかかって忘れられない。塵も積もったストレスに押しつぶされそうになっていた私を救ってくれたのは、駅ナカの本屋さんで見つけた『エレガントな毒の吐き方 脳科学と京都人に学ぶ「言いにくいことを賢く伝える」技術(中野信子著・日経BP)』だった。

本の帯に書かれた「職場、取引先、身内、ママ友、ご近所…イヤなことをされる、困っている、本当は言い返したい。だけど、この関係性は壊せない」というコピーを見て、今自分を苦しめているストレスは、私だけが持っているものじゃないんだと感じて少しほっとした。

ページをめくった時にまず目に入ったのは「NOと言わずにNOを伝える“大人の教養を、一緒に身につけてみませんか」という問いかけ。まさに私は「NO」が言えなくて、飲み込んでしまう自分にストレスを感じていたのだった。

この本はまず「NOと言わずにNOを伝えるコミュニケーションが必要な理由」から語られていく。「NO」と言えずにストレスを溜める相手は、たいてい日々顔を突き合わせなくてはならない人々だったりする。関係性は壊したくないけれど、言いたいことを飲み続けてもストレスが溜まるし、我慢し続けているうちにイライラが爆発して「そこまで言うつもりじゃなかった」と反省する言い方をしてしまう時もある。

著者の中野信子さんはまず、その気持ちを肯定してくれる。「不快なことを見聞きすれば不愉快で、イヤなことをされれば気分が悪いのは当然」と、客観的な目線で言われるとやっぱり安心する。中野さんによれば、イヤな感情を抑圧せずに、自分と相手との関係性をマイルドに扱う知恵が、エレガントに毒を吐くことなのだという。

「スレスレの嫌味」は大人の教養

本によれば、京都人の駆使する「イケズ文化」こそが、日本流・エレガントな毒の吐き方を習うのにとても向いているのだそう。たしかに京都人は「建前で話す」という印象がある。世間では「ミステリアスで怖い」と評価する人もいるけれど、堂々と気持ちを顔に出すわけでもなく、笑顔でさらりと意思を伝えられるのは、よく考えるとかなりのコミュニケーション強者、ともいえる。

お互いの関係性にもよるけれど、世の中には気を遣う相手がそれはもうたくさんいる。例えばもともと仲の良かった友人ですら、ライフステージの変化によって昔のように素直に気持ちを打ち明けづらくなることもある。

話していて疲れる相手って、そもそも思ったことを素直に言ってしまう人だったりする。「この言葉を言ったら相手は嫌かな」「マウンティングと思われないかな」と、配慮できる人はコミュニケーションで相手を困らせたりしない。

人それぞれに価値観があり、そしてその価値観は長く生きる中で変化していく。幼い頃は「素直が一番」と教育されたけれど、大人になってからは、なんでも素直に思っていることを言っていたら「イタい人」扱いをされる。

そう考えると本音で話すことは、必ずしも正義ではない。なんなら「正論」だって、世間からは“クソリプ”と言われることもある。なんて生きにくい世の中なんだ、とも思う。こんな世の中だからこそ、イタい人にイタい対応を返さない、ストレスフリーでスマートなコミュニケーションが必要なのだ。

思っていることはそのまま言わない。だけど我慢もしなくていい

本の中にはたくさんの「イケズ事例集」も収められていて、クイズ形式でエレガントな毒の吐き方を学べる。イケズの使い方を学べば学ぶほど、イケズへの悪印象はなくなり「私もこんなふうにコミュニケーションしたい!」と思うようになる。

今までの私は、コミュニケーションで我慢していたからこそ本音をぶちまけたくなる瞬間があった。なぜ自分ばかりが我慢し、へりくだらねばならないのかというストレスに押しつぶされそうだった。

しかし、イケズを学びイケズに憧れてコミュニケーションしてみると、笑顔が多くなった。それまでの自分にとっては、笑顔も我慢の一つだった。しかし、今は笑顔を「武器」と感じるようになった。

貼りつけたような笑顔は、イケズの文脈で言えば「これ以上入ってこないでよろしい」という暗黙の線引でもある。私は嫌いな人の前で、我慢して笑っているわけではない。相手に隙を見せないために笑顔を作り、そして武装した嫌味……もとい、イケズを口にする。

「どこをとってもすごいですねえ」「いつもキレイですよねえ」、今まではお世辞を言う自分にも嫌気がさしていたけれど、イケズを学んでみてからはその言葉の裏に毒を含みながら話せるようになった。この毒は、相手に伝わっていなくてもいい。イケズを使いこなせるようになると、我慢せず嫌味を言いながらも、コミュ障扱いされないどころか「スマートな人」と評価してもらえることすらあるということが分かった。

「いや、そんな小技を使わなくても、私は正々堂々とイヤな気持ちも相手に伝えたい」という人もいるかもしれない。でも、そんな人にすらもこの本を勧めたい。イケズにはいろいろと強弱があって、あからさまに嫌味っぽいものから意味をよく考えないと分からないものもある。

読めば必ず、コミュニケーションの選択が広がる。素直すぎる人ほど、この本を読むことでコミュニケーションの教養がつく。本音がよくない、ということなのではなく「時と場合によって、言葉を選択できる」ことの心強さを知った私は、本を読む前より確実に強くなれたと思う。

(ミクニシオリ)

※この記事は2023年06月24日に公開されたものです

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