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[市川紗椰の週末アートのトビラ]とびきりお洒落なモダニズム建築「土浦亀城邸」をご案内

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市川紗椰さんがアートを紹介する連載。第29回は昭和初期の貴重なモダニズム建築が、当時の暮らしをそのまま復原・移築された「土浦亀城邸」を訪問しました。

今月訪れたのは…「土浦亀城邸」

“昭和初期の貴重なモダニズム建築が、当時の暮らしをそのまま復原・移築!”

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アートや鉄道、相撲とともに、私は古い建築や街並みが好きです。レトロな昭和のビルや飲食店の色使いなんて本当に可愛い! けれど、ヨーロッパの街などに比べ、日本の古い建物はどんどん壊されてしまうことが多い気がします。「好きだった風景が新しいビルに上書きされてゆくのは仕方ないのかな……」と落ち込むことも。そんな私に明るいニュースが。1935年に建てられた日本のモダニズム住宅が、東京・青山のポーラ本社敷地内に移築・復原され、一般公開されているというのです!

「土浦亀城邸」は、公共建築や大邸宅ではない、リアルで機能的な個人住宅。建築家の土浦亀城と土浦信子夫妻が、60年もの間住み続けてきた“二人暮らしのとびきりお洒落な家”です。大きな窓のある白いキューブのような外観。各部屋を1階、2階と区切らず、半階分の段差をずらすようにつなげてゆく、リズミカルなスキップフロアが特徴です。吹き抜けから明るい光が差し込む開放感のある居間が気持ちいい! ラグや絵画で色をきかせ、オリジナルの家具がコンパクトで素敵。90年前に建てられたとは思えず「今、ここに住みたい」と憧れるセンスにあふれています。土浦夫妻は、1923年から2年半、「帝国ホテル」などを手がけた建築家・フランク・ロイド・ライトのロサンゼルスとウィスコンシン州の事務所で働いていました。帰国後、アメリカで学んだモダニズム建築を、昭和の日本の暮らしに合わせて設計したのがこの邸宅。デザインには日本初の女性建築家である信子夫人のアイディアも多く取り入れられているといわれています。細やかな部分に夫妻の工夫が表れていて見入ってしまいます。豊かで夢のある暮らしが伝わってくる、古くて新しい家。

生き生きとした姿を今も見ることができることに、感激します!

中2階のある住まいのデザインからインテリアまで、お洒落なセンスでいっぱい

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土浦邸の吹き抜けのある居間から見た中2階の様子。開口部の光の取り入れ方も、居心地のよさの 秘密かも。左手の壁に、土浦信子夫人の絵が。ソファにかかるラグは1925年にアメリカで買ったもの

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最上階は夫妻のプライベートスペース。吹き抜けに面した寝室には小さなベッドが縦に並び、クローゼットやドレッサーなど収納がたっぷり。衣装や戸棚のサイズに合わせたボックスなども再現

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当時のチェアやテーブルなど、材料から復原。配置も忠実に再現したダイニングルーム。ダークブルーの飾り棚の中には二人が特注したイニシャル入りの陶器セットも

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アメリカ風につくられたシステムキッチン。奥の小窓はダイニングとつながっていて料理が出しやすい

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キッチンの収納。カトラリーを入れた引き出しのほか、奥に見えるのは引き出し式のまな板!

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最上階にある洗面所は、写真を現像するための暗室にもなっている

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地下1階にはタイル張りの浴室が。自然光が差し込み、可愛らしく機能的

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フランク・ロイド・ライトが信子夫人に宛てたメッセージ。サインの横に「Big little NOBU.」と親愛を込めた呼称が書かれている

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中2階からリビング・ダイニングを見る。吹き抜けの気持ちいい空間に、ペンダントライトが。左手の上階が寝室になっている

トビラの奥で聞いてみた

展示室のトビラの奥で、教えてくれたのは… 建築史家、元・芝浦工業大学特任教授 田中厚子さん

市川 田中先生は、この邸宅が目黒にあり、土浦夫妻が実際にお住まいだった1980年代に実際に訪れたことがあるそうですね。当時の様子を教えてください。

田中 よくお話を聞きに通っていました。うちの子どもたちを連れていくと、「にぎやかでいいね」と。中2階で子どもたちがバイオリンを弾いたこともあります。

市川 楽しそうな生活が伝わってきます。どんなお二人だったのですか?

田中 亀城先生はおおらかなジェントルマンという感じで、信子さんは天真爛漫な明るい方。当時お二人とも90歳前後でしたが、お元気で仲よしでした。

市川 素敵! 信子さんは日本初の女性建築家でありながら、第二次世界大戦後、建築の第一線から退いてしまったのですよね。生き方にとても興味を惹かれます。

田中 どうしておやめになったのかを尋ねたとき「時代が早すぎた。今のあなたたちには想像できないでしょうけれども」とおっしゃっていました。戦後は抽象画をお描きになっていて、作品が家の中にたくさん飾られています。

市川 色使いがとてもおしゃれです。家の中に信子さんのセンスが随所に光っていますね。夫婦の暮らしをこの建築が器のように受け止めている感じがしました。

田中 「家とインテリアは人間の暮らしの背景だから目立ってはいけない。暮らしを主役に、よい背景になるような色合いにしなければ」と亀城先生はおっしゃっていました。移築にあたっては、綿密な時代考証を経て、土浦夫妻の“センスのいい暮らし”もまるごと復原されています。多くの方々に感じていただきたいです。

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