「年齢を重ねたら、セックスはしないもの?」答えはNO。いくつになっても楽しく、健やかな性生活を送りたいと思うのは、当然のことです。だけど実際は、年齢による体の変化などで若い頃のようにセックスできない、セックスが痛い、セックスが怖いといった悩みも少なくないようです。性の健康に関するアクティビストでありメノポーズカウンセラーの小林ひろみさんに、40才からの性生活をより良いものにするためのアドバイスをいただきます。
9月は性に関する学会やイベントが多くあります。性に関することを改めて考える中でふと気にかかるのが、どのくらいの人々が本当にセックスを楽しめているか、ということです。筆者がよく耳にするのは、40代以降のセックスレスやしぶしぶ相手の要望に応じているカップルが多いこと。また若い世代では、風邪で寝込んでいるのに介抱を装って少しの間だけだからと強引にセックスをされたというSNSのつぶやきにたくさんの人が反応していました。セックスをしたい気分じゃない、体調が良くないのに行われるセックスの状況は、そういうフリをしているプレイではない限り誰がみても楽しいとは思えませんよね。
ちょうど昨年の今ごろ、世界性の健康学会で「セクシュアル・プレジャー宣言」が出されました。"プレジャー"とは、「快楽」「快感」「楽しさ」という意味。性的な快楽が性の健康に取り込まれました。性の健康は、自分の性的な事柄に関する良好さを指すのですが、そこにはウェルビーイング(幸福度)が含まれています。人々の幸福度は性的な悦びも必要な要素として以前から認識されていましたが、改めて宣言したことは、その重要性を国際社会へ訴えかけたことになります。
セックスに満足していない女性は3割
日本性科学会セクシュアリティ研究会の中高年を対象にした調査によると、肉体的な面の「セックスの満足感」について、満足していないと答えた男性は全体の1割と比較して女性は3割という結果に。体の構造上、女性の方がオーガズムを得づらいと簡単に片づけていいものか、快楽が得られない性生活をおくる精神的な苦痛も少なからずあるでしょう。
では、性的な快楽とは本来どういうことか。国際学会が提唱するセクシュアル・プレジャーは、自己決定、同意、安全、プライバシー、自信、性に関することを対等に話せる関係性やコミュニケーション能力が揃って性的な快楽が得られるということ。性的同意という言葉をよく耳にしますが、これは長年連れ添うカップル間でも必要なこと。でも、仰々しいものではありません。「今日(セックス)する?」「このタッチで大丈夫?」そしてノーと言える、または、ノーを言われた時に素直に受け入れる関係性です。差別、強要や暴力など受けることがないこと。プライバシーがしっかり保たれた環境で、お互いに要望を言えたり、応じたり、断ったり、自由に気兼ねないやり取りできる性行為。そういった条件が整って初めて、快楽が得られるということ。子供が起きてしまったら、声が漏れてしまったら、相手から体形の指摘や傷つくことを言われたら、そのような心理状態のセックスでは、快楽を得るのは難しく、早く終わってくれと呪文を唱えるセックスになってしまいます。
面倒くさい・苦痛なセックスから解放されよう
性反応という科学的側面からすると、人の性反応は、興奮期、高原期、オルガズム期、消退期の4つの段階にわかれます。興奮期に心地よい場所への好みの圧でのタッチで何度も興奮を繰り返すことで、高原期に入り体の準備が整います。よく耳にする、「前戯に十分に時間を取るように」というのはこのためです。興奮期に早々に挿入されてしまうと、局部に興奮すると起きる充血、膨隆、潤滑液の流出する現象も十分ではない状態ということです。ここまで聞けば、すぐに挿入されるのは、素人でもオルガズムが得られにくいと理解できますよね。興奮期にどこをどう触れられると気持ち良いか、好みを正確に伝える、自分も相手に聞く。そういったコミュニケーションを省かず重ねて得られる快楽は、今までとは全く別なものと言えるでしょう。「そこじゃない」と思いつつ、触れられるがままに過ごしていたのは、伝えれば相手が傷つくかもと遠慮があったからかもしれません。でも伝えなければ相手はわからない、わかるように伝えるのも骨が折れるもの。でも頑張った分、女性の体は男性と比較するとマルチオルガズムに至ることが多く、何度もオルガズムを得られることもあるそうなので、伝える努力は倍になって快楽として戻ってくる可能性が大いにあります。
面倒くさい、苦痛だったセックスの印象から変わりませんか。意識にジェンダーバイアスがあると、セックスは男性がリードするものという男女の役割が頭にあり、そこから抜け出せないカップルは珍しくありません。また、性教育の中で「性反応」は語られてこなかったので、私たちが質の良いセックスとは何かを理解できなかった、実践できなかったという背景もあります。しかし、今までの二人のあり方を見直し、これから質を変えることは可能です。40代以降、女性においては濡れづらかったり、痛みがでることがあるし、男性では中折れなどが起こるのも自然なこと。体に起きる現象には、ときにグッズやゼリーを活用しようと気軽に提案できるなど、臨機応変に楽しむことが大切です。ソロセックスと変わらない、ささっと済ませるインスタントセックスではなく、お互いが気乗りしたタイミングで、ゆっくりと相手の性反応を確認しながら二人のコミュニケーションで到達できる快感は、達成感はもちろんのこと疲れやストレスがふき飛ぶほどの快楽なのではないでしょうか。
ライター/小林ひろみ
メノポーズカウンセラー。NPO法人更年期と加齢のヘルスケア会員。日本性科学会会員。性と健康を考える女性専門家の会 理事。デリケーゾーンブランドYourSide、潤滑ゼリーの輸入販売会社経営の傍ら、更年期に多い性交痛について情報発信を行う。幅広い性交時の痛みに関する情報サイト「Fuan Free (ふあんふりー)」を運営。