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親権を拒否しあう離婚協議中の両親…それを知った子どもの運命は?

エンタメ

「あなたにとっての幸せとは何ですか?」と聞かれてすぐに答えられない人も多いと思いますが、そんな自分のなかにある価値観を揺るがすような衝撃作を今回はご紹介したいと思います。その作品とは……。

世界中の映画祭を騒然とさせた話題作『ラブレス』!

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【映画、ときどき私】 vol. 153

一流企業で働くボリスと美容サロンを経営するジェーニャの夫婦は、離婚に向けて協議中。ふたりの間には12歳になる息子のアレクセイがいたが、すでにそれぞれ別のパートナーがいることもあり、お互いに親権を押し付け合い、言い争いが絶えなかった。

そんな両親の口論に心を痛めていたアレクセイは、ある日学校に出かけたまま行方不明となってしまう。自分たちの幸せな未来のため、必死に息子を探し始める身勝手な両親。アレクセイの安否はいかに……。

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昨年のカンヌ国際映画祭での審査員賞受賞をはじめ、アカデミー賞外国語映画賞ノミネートなど、注目を集めてきた映画がいよいよ日本でも公開を迎えますが、今回は監督・脚本を務めたこちらの方にお話を聞いてきました。それは……。

ロシアの鬼才アンドレイ・ズビャギンツェフ監督!

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デビュー作以降、発表する作品すべてが世界三大映画祭で評価されていることもあり、世界中の映画ファンからも新作に対する期待値が高いズビャギンツェフ監督。今回は新たな傑作とともに来日し、作品に込めた思いを語っていただきました。

本作の『ラブレス』というタイトルは、ロシア語の原題「Nelyubov」というのを英語に直訳したものだそうですが、そもそもロシアでもあまり使われない単語であり、単に愛がない状態ということでもないのだという。

まずはこのタイトルに込めた思いから教えてください。

監督 この単語は辞書には載っているけれど、文学でも日常生活でも極めてまれにしか使われない言葉。でも、僕にとっては辞書に書かれている解釈でも不十分だと思っている言葉でもあるんだよ。

なぜなら、憎しみや無関心、愛がないといった概念が書かれていたとして、人生というのはそういうストレートなものだけではないと思っているからなんだ。つまり、ピアノに例えると、この単語は半音に近いものがあるから、白い鍵盤の部分ではなく、黒い鍵盤のような言葉なんだよ。

説明するのは難しいことなんだけど、唯一言えるとすれば、いろんなものが不足しているという状態であって、愛や忍耐、寛容性、他の人に対する関心といったものが欠けているということなんだ。

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本作のような “ラブレスな夫婦” の姿はロシアでも多く見られていますか?

監督 確かに、何年も家庭内別居状態であるにも関わらず、子供が成長するまで一緒に暮らしている夫婦はたくさんいるよ。とはいえ、この作品を観ている人たちに考えてもらいたいという思いもあって、劇中ではあえて極端に描いているところもあるんだ。2時間という映画だといろんな要素を凝縮して伝えないと心に響かないからね。

僕の映画を観てロシアを知ることができると思ってくれるのは嬉しいけれど、あくまでもそれは一面にすぎない。ただ、この映画で伝えたかったことのひとつは、相手を思いやれないのであれば恋愛するべきじゃないし、そういう恋愛の結果に、犠牲になる子どもたちがいることを忘れないで欲しいということなんだ。

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本作では印象的なシーンも多く見られましたが、撮影監督とはどのようにして作り上げていますか?

監督 撮影監督のミハイル・クリチマンとは一緒に仕事をして18年もの関係になるんだけど、初めて仕事をしたときに、「理想的で完璧なパートナーを見つけた」というのが僕の印象だったんだ。まさに、恋愛と同じように、ずっと昔から恋をしていて、「これが運命である」と感じるのとまったく同じ状況だったんだよ。

僕はミハイルのなかに自分の目を見いだしたと感じているんだけど、僕にとっては友であり、同志であり、自分と同等の仕事をする人間でもある。だから、彼とならたとえ火の中水の中、どこにでも行けると思っていて、いまでは他の撮影監督と仕事をすることは想像できないね。

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そんなおふたりがこだわったシーンはどこですか?

監督 僕たちの特徴としては、同じシーンを何度も何度も撮るというスタイルなんだけど、この映画に関しては、唯一例外があったんだ。それは、ある人物の死体置き場でのシーン。俳優たちには、シートを外すと損傷の激しい死体を模した人形があるということは伝えていたんだけど、どのようなものかは事前に見せてはいなかった。実際、俳優たちの目に触れることがないようにスタッフ全員に指示をしていたくらいなんだよ。

そして、本番でそれを見せたときにはやはり効果があって、彼らはシナリオにあるセリフを口にしてはいたけれど、リアクションは実際の人生から取ってきたものだったんだ。だから、そこは1回目のカットで行こうと、それを “信じよう” と決めたんだ。

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これまでの作品も含めて、一貫して心がけていることはありますか?

監督 僕の作品というのは、自分自身のこれまで生きてきたことや職業と密接に結びついているものだと思っているよ。それと、僕は俳優としての教育を受けた人間ということもあり、演技をしているというふうに見えないことが俳優としての価値基準だとも考えているんだ。つまり、スクリーン上の出来事であるというのではなく、観客にも現実だと思い込ませることが重要なんだよ。

さっき、僕は俳優に対して「信じる」という言葉を使ったけれど、それはロシア演劇のある権威が言った言葉。というのも、彼は俳優が何かを演じようと試みているときにはOKを出さず、本当だと感じられたときに「信じる」と言うんだ。そんなふうに人生と同じだと感じられることが僕にとっての基準なんじゃないかな。だから、役者にもカット毎にいま言ったことを求めているんだよ。

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