猫の猫らしい行動に、自分の生き方を重ねてハッとする瞬間があります。本のデザイン&編集をされている籾山(もみやま)ご夫妻にも心当たりがあるようです。「家族ってなんだ?」という、誰もが一度は直面したことのある問いに、ひとつの「解」をもたらしてくれたトラの教えとは!?
聞こえていないのか、聞こえていないフリなのか
年を取って耳が遠くなったのか、聞こえないフリをしているだけなのか。そんな素っ気ない態度がいじらしいトラは、来年で14歳になるオス猫。飼い主は、ご夫婦で本のデザインと編集をされている籾山真之(もみやま まさゆき)さんと伸子さんです。
「名前を呼んでも来た試しはないし、最近は振り向きもしません(笑)そもそも私より夫のことが好きなんです。大好きな夫にさえも、すり寄って甘えたりすることはないけど、夫がソファに座っていると、肩に前足を乗せて身を乗り出し、夫の顔をジーッと見つめることがあるんです。『好きです~』みたいな感じで」(伸子さん)
「愛情表現こそ豊かじゃありませんけど、トラには好かれているという自覚はあります。僕と似てるのかもしれないです、物静かでフラットな性格が」(真之さん)
「トラのごはん係は私なのに、私が気忙しくバタバタしているからかな?ちっともいい顔してくれなくて(笑)掃除機をかけたり、床を拭き掃除したりしていると、フーッて未だに威嚇してきます。もう13年も一緒に暮らしているのに」(伸子さん)
5歳の息子くんとトラの関係性
籾山家には、電車が大好きな5歳の息子さんがいます。その息子さんとトラの関係性もまた面白いのです。
「息子が生まれて、病院から家に戻った初日だけ『なんだ?なんだ?』とソワソワしていたトラでしたが、二日目からは完全無視でした(笑)
息子の方も生まれた時からトラがいるから、いて当たり前なんでしょうね。いろんなものに興味を示す年齢になっても、トラを追いかけ回したりすることもなく、わざわざ撫でたりすることもなく。今もトラが近くを通った時にだけ、そっと触れるくらいで。トラにとっても、息子にとっても、お互いの存在はいい意味で『空気』なのだと思います」(伸子さん)
トラが教えてくれた「家族の距離感」
真之さんと、伸子さんと、息子くんと、トラ。4人(3人+1匹)家族のベストな距離感は、トラが作ってくれたと伸子さんは言います。
「もし息子が先で、トラが後から来ていたら、私たち夫婦は、息子にベタベタしていたかもしれません。クールでフラットなトラが先にいたから、『個』を尊重する距離感の心地よさに気づけたし、その間合いの取り方に慣れたし、距離を保つことが相手に対する愛情なのだと知れたのだと思います」(伸子さん)
「4人(3人+1匹)がそれぞれの人生を、手をつなぐわけでもなく、各々が一人ずつ並行に歩いているような感じです。隣を歩くお互いの存在を感じながら、その距離感を保って、相手に信頼を寄せながら」(真之さん)
血のつながった家族に限った話ではないように思いました。血のつながりがあろうとなかろうと。ヒト科であろうとなかろうと。そこが安心・安全で、互いを尊重する距離が保たれているからこそ、常に『素』でいられる。また、その距離を保つことで、互いに信頼が生まれる。そんな場所にこそ家族ができるのかもしれません。
トラという猫を通して、ひとつの家族の在り方を学びました。トラ、そして籾山家のみなさん、いろんな教えをありがとうございます!
2018年も残りわずか。あなたにとって、あなたの大切な人にとって、今年はどんな年でしたか?自分を生きることに率直な猫から学び、来る年に生かせることが、ひとつでもありますように。よいお年をお迎えください。
photo / 筒井聖子
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