江戸時代の安政年間に3代目が創作したもので、富山で最も伝統ある銘菓。万葉歌人・大伴家持や、俳人・松尾芭蕉も憧れ愛でたという美しい地元の海。そこに映った満月を写したという風情ある姿と、白味噌餡の上品な風味が、何とも味わい深いお菓子です。
約200年近い歴史を持つ老舗「江出乃月本舗 志乃原」
「江出乃月本舗 志乃原」は、天保3年(1832年)に、初代・増山宗兵衛が開業致しました。さかのぼると、加賀百万石・前田利家の長男である高岡城主・前田利長に藩士として仕え、広く海産物問屋を営んでいた旗本の寺井家を祖先とするそうです。
代表銘菓「江出の月」は、江戸時代の安政年間、3代目菓匠、三郎平が創案したもの。現在は7代目の篠原誠一さんが、伝統の菓子を受け継ぎ、老舗の暖簾を守っています。
薄青い「おぼろ種」と白味噌餡の秘密とは?
「江出の月」は、地元ゆかりの歌人・大伴家持の歌が『万葉集』に見られ、あの松尾芭蕉も憧れ訪ねた有名な歌枕「有磯海(ありそうみ)」、数多の岩礁から成る遠浅の海に映った満月を模したものだそう。現在も富山県屈指の人気観光スポットとして知られる高岡市の「雨晴(あまはらし)海岸」であり、白砂青松の美しい景勝地です。
3代目の三郎平は、その情景を非常に好んだそうで、「江出の月」がほのかに青いのは、水面に映った満月の姿であるため。粉糖と卵白を泡立てたメレンゲ状のものを表面に吹き付けた白い点々の「すり蜜」は、さざ波を表しています。
この水色の皮は、「おぼろ種」と呼ばれるもの。「ふやき煎餅」よりもさらに薄く焼き上げる「すり種」を、さらに半分に削いだものをこのように称します。富山県産の新大正もち米を100%使用して焼き上げていますが、中身がうっすらと透けるほどの薄さで、これを作るには職人の多くの経験と技術を要します。
2枚の「おぼろ種」で挟むのは、自家製の白味噌餡。お味噌は代々、高松の白味噌を使用。おぼろ種との相性がとても良く、「江出の月」特有の風味を醸し出してくれるそうです。ほどよい塩気が餡の上品な甘さを引き立てる白味噌餡の風味を、サクッと繊細な歯触りのおぼろ種が受け止め、口の中でふんわりとけていきます。
丁寧に削いだおぼろ種に白味噌餡を挟む際、湿度が低かったり、作り置きした固めの餡を挟んだりすると、極薄の種が簡単に割れてしまうそう。おぼろ種は乾燥を嫌うので、温度と湿度の管理を徹底し、餡はその日の朝炊いた、まだ温かく柔らかなものを使用します。実に細やかな気を遣い、作られ続けているお菓子。「越中高岡土産品100選」にも選ばれていて、まさに高岡が誇る銘菓です。
1包みに2個入りで、お店のホームページのオンライン販売では1個から40個入まで選べます。常温で2週間ほど日持ちし、個包装になっているので、大勢に配るのにも重宝しますね。
7代目が受け継ぎ、新たに挑戦する思い
7代目・篠原誠一さんは、2022年に開催された第2回「BEST OF TOYAMA SWEETS とやま菓子コンテスト」に出場。地元産の日本酒と柚子や山椒などを使った琥珀糖の作品で、見事に優勝されました。
歴史ある伝統銘菓を継承しつつ、新しい菓子作りにも挑戦する強い思いに、胸を打たれます。今後も、高岡から素晴らしいお菓子を発信してくださることでしょう。