メディアでは夫婦によるセックスレスの悩みなどを目にする機会も多く、また性の実態調査『ジャパンセックスサーベイ2020』によると、婚姻関係にあるカップルのセックスレスは年々進んでいることがわかります。なぜ日本ではそんなにセックスレスが増えるのでしょうか。今回は、40代からのセックス事情について、女性医療クリニックLUNAグループ理事長・関口由紀先生に詳しくお話を伺いました。
教えてくれたのは……関口由紀先生
医師、「女性医療クリニック・LUNAグループ」理事長。
医学博士、経営学修士(MBA)、日本メンズヘルス医学会テストステロン治療認定医、日本泌尿器科学会専門医、日本排尿機能学会専門医。著書は『セックスにさよならは言わないで:悩みをなくす腟ケアの手引』など多数。
『性ホルモンで乗り越える男と女の更年期 知っておきたい驚異のテストステロンパワー』(産業編集センター)
著者:関口由紀
定価:1,760円(税込)
セックスは大切なコミュニケーション
――前回のお話で、「セックスは40歳からがいい」ということを伺いましたが、婚姻関係にあるカップルのセックスレスは年々進んでいるようです。なぜ日本人はこんなにもセックスレスが増えてしまうのでしょうか。
日本人の女性は子どもの頃から、セックス=危ないこと、身を守れ! などと教えられて育っていますよね。セックスは楽しいことだとか、コミュニケーションとしてとても大切だということは一切教えられないですよね。
私が知る限り、日本人はセックスの回数も満足度も、世界最低の順位をずっとキープしています。その座をどこにも譲ることなく、圧倒的にずっと最低。他の国に比べて回数もずっと少ないんです。
――今後、その順位が上がっていくような期待は薄いですか。
薄いでしょうね。やはり、回数も質もコミュニケーションとしての満足度も、欧米が上位です。日本は、先進国であるにも関わらず、女性の政治参加がとても低いですが、それを上回って性に関しての満足度は、ずっと世界最低を独走する特異な国だなと思います。
――確かに、性に対してオープンに学ぶ機会はないまま大人になりますよね。海外では、親のハグやキスを日常的に目にしますが、日本ではそんなシーンを見ることもないですし。
あと、社会的抑圧も強いと感じます。なんとなく、セックスしたくない人が、セックスしたい人をバッシングするような風潮があるような気がして、それは問題だなと思います。
私は、セックスしたくないのであれば無理にしなくてもいいと思うんです。しないからと言って、体に良い、悪いということはないので。ただ、セックスしたいのにしないというのは問題があると思います。したい人は、どんどんしましょう! と言いたいですね。何に関してもですが、それぞれ個性を認め合えたらいいですよね。
男性ホルモンが高い人は前向きで性的意欲も高め
――そうですね。セックスレスで悩んでいる人が多いということは、「できることならしたい」という気持ちを持つ方が多いということですよね。ただ、年齢を重ねるにつれて「この先はもうしない・できない」という気持ちになっている人にとって、60歳でも楽しむことができるんだということは大きな発見でした。
60歳と言わず、セックスは死ぬまでできます。むしろ、女性の方ができます。
――そうなんですか? 男性のほうが年齢を重ねてもできる印象がありました。
いえ、男性は勃起しなくなると「僕は卒業……」と退場しちゃう方が多いんです。最近は気軽に治療できますけどね。でも、女性はいくつになっても腟の状態が保てていればできるんです。それに、挿入=セックスではないので、パートナーが勃起できなくなっても、セックスをしている人たちはいます。本当に相性が良いとか、お互いに理解し合えているという前提で成り立つものではあると思います。
――年齢を重ねても性的意欲が維持できる人の特徴はあるのでしょうか。
人間には男女両方のホルモンがあり、男性も女性も、男性ホルモンが適当に高い人たちは、前向きで、体が丈夫でよく動き、セックスも好きですよね。男性ホルモンはバイタルエナジーなので、生きる意欲を上げてくれるんです。男性ホルモンが高いと筋肉量が増えるので、体も動くようになる、そして性的意欲も上がるということです。
40代からは第二の人生
――先生の著書『セックスにさよならは言わないで 悩みをなくす腟ケアの手引』にもあるように、女性ホルモンが減少することが、自己肯定感にも影響するんですか?
そうですね。例えば、60代になった自分がセックスできる身体だと思っている人のほうが自己肯定感は高いと思いませんか? 積極的な性的意欲は男性ホルモンがつかさどっているのですが、女性ホルモンが減少すると、男性を受け入れる意欲が低下します。そこへ「セックスする年齢は終わった」などと思いこんでいると、更に性欲は減少する一方。
性欲の低下に伴って、セックスだけでなくスキンシップも減少すると、愛情ホルモンのオキシトシンの分泌が減ってしまい、自己肯定感も薄れていきます。自己肯定感が得られなくなる原因にはさまざまなものがありますが、私は多くの患者さんを見てきた経験から、セックスやスキンシップの不足によるオキシトシンの減少も、大きな原因の一つだと思っています。
――なるほど。年齢を重ねても自己肯定感を上げる方法ってあるんですか?
年齢を言い訳にせずいくつになっても前向きに生きることや、スキンシップを心がけるといいですね。
考えてみて。全ての哺乳類の中で、生殖能力がなくなってから3、40年生きるのは人間の女性だけ。猿なんて、生殖機能がなくなったら死ぬんですよ。生殖から離れた生き物になるということは、50歳で第二の人生がスタートする、新たに生まれ変わると言ってもいいくらい。そこでどう生まれ変わるかで、残りの人生が違ってくるんです。
日本女性の健康寿命と平均寿命には約12歳の開きがあるんです。80歳で、一人暮らしをしながら元気に生きている人もいれば、80歳で介護を受けながら生きている人もいます。そこに大きな差が出る原因は、40代以降に年齢をポジティブに受け入れて自分らしく生きるか、ネガティブに受け取るかが大きいと思います。