主演映画『違国日記』も話題の新垣結衣さん。約20年の俳優としてのキャリアを経て今、思うこととは? 新垣結衣さんの「自分らしさの見つけ方」に迫ったインタビューをまとめてお届けします。
新垣結衣さんインタビュー「自分らしさの見つけ方」
柔らかな笑顔の裏には、さまざまな経験や乗り越えてきた葛藤がある。主演映画『違国日記』にも通じる、優しくて寛容で健やかなマインドとは──。時に正座をしながら真剣に紡いでくれた、自分らしさについての言葉たち。
お話をうかがったのは
俳優
新垣結衣
あらがき ゆい●1988年6月11日生まれ、沖縄県出身。モデルを経て2005年にドラマ『Sh15uya』で俳優デビュー。近年の主な出演作は大河ドラマ『鎌倉殿の13人』、ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』、『風間公親-教場0-』、映画『コード・ブルー-ドクターヘリ緊急救命-』、『GHOSTBOOK おばけずかん』、『正欲』など。
距離を保ちつつ、尊重できる人でいたい
子供の頃から漫画好きだったという新垣さん。主演映画『違国日記』も、オファーを受ける前から読んでいた大好きな漫画が原作。嬉しさと責任を感じながら「精一杯演じるしかない」と臨んだのが、事故で両親を亡くした姪を引き取る小説家の槙生役だ。
「初対面の人には人見知りしてしまう槙生ちゃんですが、その初めのハードルを越えてしまえば、誰に対しても平等に向き合うし、言葉を尽くす人だなぁと思っていて。クールな印象はあるけれど、無理に表情を作ったり愛想笑いをしないというだけで実は表情豊かですごくユニーク。自分のダメな部分を嫌というほど自覚していて、それが槙生ちゃんの抱えているトラウマにも繋がっていたりするのですが……そんな自分をなんとか受け入れていて、そんな自分を知った上で一緒にいてくれる人を大事に思っている。こんな風に人と向き合いたいと思わせてくれる役でした」
年齢も性格も違う、異なる国=世界を持つ叔母と姪の風変わりな共同生活を、温かな視点で見つめた本作。新垣さん自身も、まったく違う他者と関わる上で心がけていることがある。
「あなたの世界と私の世界、その距離をちゃんと保ちつつ尊重できる人でいたいと思っています。親しい関係だったとしてもお互いに自立した存在であることを忘れないようにしたいです。共感したり、感覚が同じだと思えることはとても嬉しいし大事なことだけれど、違う人間だから、すべて理解できるわけじゃない。相手の大事なことを自分の大事なものに置き換えて考えてみたり、いろんな視点で捉える努力をします。『そういう考えもあるんだ』と知ることも楽しいですしね」
とはいえ、冷静な新垣さんにだって時にモヤっとしてしまうことはある。
「全然あります(笑)。心がけているのは、突発的にモヤっとした時は一呼吸おいて冷静になるように意識することと、疑問に思ったことを溜め込まずに素直に聞くこと。その結果、単なるお互いの思い違いだったこともよくありますし、補足してもらうことで視界がクリアになることも多いです。ちゃんとコミュニケーションを取ることで、すれ違いは避けられると思っています」
目標は“ちゃんと生きる”こと。
「そうしないと後悔したり、思い返して眠れなくなったり、最終的に自分が嫌な思いをするから。でも別にちゃんと生きること=完璧に生きることではないんです。私自身、いつまでたっても不完全だなって思うから。瞬間、瞬間に最善を尽くして今を生きる。その積み重ねでしかないのかもしれません」
川の流れに身を任せていたら穏やかな流れにたどり着いた
俳優としてのキャリアは約20年。デビューしたのは、今作の中の姪と同じ15歳。早瀬さん演じる朝の姿を通して当時のことを振り返り、「多感ってまさにあの時期のこと」と、懐かしそうに笑う。
「環境が大きく変わったことが楽しい反面、すごく怖かったことも覚えています。私自身は俳優を志したことはなくて、周りの大人に勧められるまま、目の前のことに必死で取り組んでいたらここにたどり着いた感じ。10代から嫌でも仕事の責任を感じていたから、周囲に迷惑をかけないために本当の気持ちを押し殺したこともありました。でも年齢や経験を重ね、少しずつ自分の意思を大切にできる瞬間が増えてきた気がします。川の流れに時に抗いながらも身を任せていたら、穏やかな流れに出た感じ。これまでの選択に間違いはなかった。というか、誰の人生にも間違いなんてないんじゃないかな」
新たにできるようになったことは他にも。
「職業柄、昔からサポートしてもらうことが圧倒的に多かったけど、大人になったことでこちらから感謝を返す機会が増えた気がしてすごく嬉しいんです。『こういう時にお花を贈るのか』など、まだまだ知らないことばかり。世間知らずのまま大人になってしまったので、そのやり方も勉強中ですけどね」
人間は多面的。いろんな“らしさ”があっていい
明るい、穏やか、どこまでも軽やかで自然体……。私たちがイメージする“新垣結衣像”は、見る人の数だけ無限にあるけれど、本人は「そのどれもが私らしさの一部だと思う」と語る。
「自分自身がこうありたいと思う私らしさと、私のことを知ってくださる方が思う新垣結衣らしさが一緒かどうかはわかりません。けれど誰かから言われた言葉によって『自分はこういう人間なんだ』と新たに気づくこともありますよね。人は多面的だから、いろんな“らしさ”があっていいと思うんです。そして、それが明日変わっても明後日変わっても1年後に変わってもいい。『今日はこういうメイクをしたい』とか『この服を着てみよう』みたいな気持ちが、きっと自分らしさを作っていくと思います」
一般的に自分らしさは、無駄を削ぎ落としたあとに残るシンプルなものと思われがちだけど……。
「メイクで例えるとナチュラルメイクと捉えられることが多いですよね。でも私はそうじゃなくても全然いいと思うんです。たとえば、しっかりメイクをすることで人の目を見ることができたり、堂々としていられる人もいるわけですから。なりたいと思う自分が、その人らしさなんだと思います」
リラックスできるかが自分らしさを保つ基準
自身が考える自分像は、「リラックスしていたい人」。その肩の力の抜け方がなんともチャーミング。
「昔からすごく緊張しやすかったり、物事をネガティブに考えすぎてしまうタイプなんです。だから仕事をする時も、服を選ぶ時も、常にリラックスできるかが自分らしさを保つ基準に。緊張する場面では、リラックスのためにあえて違うことを考えてみたり、好きな香りを嗅いだりすることもあります。でもやっぱり、ふざけることが一番かな(笑)。楽しいことが大好きだし、力みすぎていない時のほうがすごく調子がいいんです」
特にリラックスできる大好きな時間は、夜寝る前のベッドの中。
「1日のやるべきことを全部終えて、あとは寝るだけ!って瞬間が最高に幸せ。ベッドの上でよくするストレッチも、私にとって大切な時間。面倒くさい時は無理にやらないけれど、すごく疲れているなって時ほど、ストレッチをしたほうが心も体もリラックスできるし、自分らしさをキープできる気がしています」
新垣結衣さん主演映画『違国日記』公開中
映画『違国日記』
©2024 ヤマシタトモコ・祥伝社/「違国日記」製作委員会
少女小説家の槙生(新垣結衣)はある日、交通事故で両親を亡くした15歳の姪、朝(早瀬憩)を勢いで引き取ることに。ほぼ初対面の二人の奇妙な共同生活が始まるものの、人見知りで不器用な槙生と、人懐っこくて素直な朝の性格は正反対。初めて見る風変わりな大人である叔母に戸惑いながらも、朝は持ち前の天真爛漫さで、槙生の心を動かしていく。ヤマシタトモコの同名コミックを、瀬田なつき監督が映画化。●6月7日より全国公開