【現状3】360度評価
「多面評価とも呼ばれ、上司や部下、同僚など複数人で従業員を評価する手法。評価の客観性を保てるなどの理由から近年、多くの企業が取り入れています。しかし現時点では、その効果は微妙。なぜならば部下が上司を評価する場合に、好き嫌いで評価してしまうことが多いんです。部下からよく思われていないと知った上司はショックを受けて、ますます育成に消極的になる。上司と部下の関係性が悪化してしまった、という話をよく聞きます」
【現状4】複線型人事制度
「複数のキャリアコースから、従業員が自ら選択できる人事システムのこと。近年、人件費の高い管理職を増やさずに長期雇用を続けるため、部下を持たない“スペシャリスト等級”を設ける企業が増加。その影響で誕生した制度です。管理職になりたくない人には有益ですが、管理職からすれば、負担なく年次に見合った給料をもらえるスペシャリスト等級はズルいと感じますよね。しかも管理職には残業代を払わない企業も多いため、責任が増えても給料はほとんど変わらず管理職=罰ゲームのように感じられる原因となっています」
【現状5】回避型マネジメント・マイクロマネジメント
「プレイングマネージャー化が進むことで忙しくなった上司は、部下のミスで自分の業務がさらに増えることを防ぐため、仕事を細かく指示する“マイクロマネジメント”を行うようになります。さらにハラスメント対策の厳格化によって、部下を叱らない&誘わないことで摩擦を回避する“回避型マネジメント”もトレンドに。それらの相乗効果によって部下を育てる余力も気力も失い、最終的には自分で部下の仕事を負担してしまうことも、管理職の激務化につながっています」
【対策1】管理職候補の早期選抜
「優秀な人材の流出や昇進意欲の低下を防ぐために有効なのが、管理職候補を早い段階で選抜し、エリート意識を持たせる育成方法。入社後5年も見ていればデキる部下とデキない部下の差は歴然です。優秀な人ほど自分の能力を自覚し、年功序列の平等な昇進を待ち続けるのは馬鹿馬鹿しいと感じて転職してしまう。特に女性には、出産などを経て出世をあきらめてしまう前に昇進の可能性を伝えることが重要。ダイキン工業はこの方法を実践し、女性の管理職が増えました」
【対策2】管理職分業
「管理職業務の分業制をいち早く取り入れた日揮グループは、マネジメントを担っていた部長と部長代行のうち、部長代行職を廃止。代わりに“CDM(キャリアデベロップメントマネージャー)”と“PCM(プロジェクトコーディネーションマネージャー)”というポジションを創設し三位一体で分担する体制に変更しました。管理職からは『業務が明確になった』、部下からは『相談がしやすくなった』などの声が上がり、ポジティブな変化があるそう。管理職の負担を減らすための解決策として注目されています」
【対策3】クロスカンパニーメンタリング
「女性の昇進意欲やリーダーシップの向上を目的として、経済産業省が推進している、他企業同士の組み合わせで行う企業横断型メンタリングプログラム。実践する大手企業の報告では、参加者の多くが意欲の向上を実感するなど、効果がてきめんに表れていました。最大のメリットは、他社と意見交換することで、自社のよいところを認識できるようになること。また、こういったプログラムに選ばれる=自分は期待されているんだ!と、モチベーションもUPします」
【対策4】ネットワーク・アプローチ
「管理職が抱える問題の中でも、近年特に重大化しているのがメンタルヘルスの不調。原因のひとつは、悩みを共有できる仲間の不在です。経営陣から部署の業績を比較されることで、管理職同士はお互いをライバル視しがち。同性の管理職が少ない女性はなおさら孤独に陥りやすいんです。そうならないためには、ネットワーキングが重要。社内だけではなく、社外にも管理職の人脈をつくることで、愚痴を言い合えて心の負担が軽減します」
【対策5】脱・リーダーシップ幻想
「管理職のプレイングマネージャー化に加えて、メディアによる偏ったリーダー論が広まり、ひとりで問題解決すること=優れたリーダーシップだと思い込む人が増えてしまいました。本来は、部下を通じて成果を出すのが管理職の仕事。しかし、そういったマネジメント方法を管理職候補者に教える企業は現状ほとんどありません。上司はフィードバックの与え方を、部下はフィードバックの受け取り方を、それぞれ一緒に学べる研修制度の必要性を提唱しています」
管理職はやりがいも多く転職にも有利に働く!?
「『罰ゲーム化する管理職 バグだらけの職場の修正法』を執筆した背景には、女性の活躍推進を題材にしたコラムへの大きな反響があります。業務は増える一方で給料があまり上がらない、そんな罰ゲーム化の影響を最も受けやすいのは女性で、それが日本全国のあらゆる業種において女性の社会進出が進まない原因になっています。
アンケート結果のとおり、現在日本で管理職を志す女性はとても少ない。無理をする必要はないけれど、迷っているなら挑戦する価値はあると思います。家族との両立にハードルを感じる人が多いですが、現代は家事代行やベビーシッターなどのサービスがあります。家事・育児をアウトソーシングしない日本の文化は、女性活躍を妨げる要因のひとつ。アメリカではパワーカップルほど子どもを預け仕事や夫婦の時間を確保します。家事も育児も適度に人に任せれば、選択肢はぐんと増すはずです。
管理職の現状は厳しいですが、実は辞める人は意外と少ないんです。それは苦労相応のやりがいがあるから。収入の向上や、部下の成長を実感することの喜び、そしていちばんは、非管理職にはないビジョンが持てること。大きな仕事を任されて社内外で自分の裁量の範囲が広がりますし、経営陣や投資家との関わりも増えて視座が高まります。
管理職になると転職が難しくなると考える人もいますが、管理職は目標設定や組織運営など、様々なマネジメントを行う中で、ピープルマネジメントと呼ばれるスキルが身についていきます。抽象度が高い能力ではありますが、きちんと言語化さえできれば転職は可能。女性の管理職経験者を求める企業は多く、現役プレイヤーよりも需要が高いともいえるかもしれません」
撮影/花村克彦〈Ajoite〉 イラスト/3rdeye 取材・原文/中西彩乃、松山 梢(インタビュー、座談会) ※BAILA2025年1月号掲載