学生から社会人になったり、結婚や出産を経験したり、キャリアを追い求めたりと、20代、30代は人生においてもあらゆることを考えさせられる年代。そこで、さまざまな生き方を選んだ女性たちを描いた注目作をご紹介します。それは……。
女性たちのリアルを描いた感動作『パリの家族たち』!
【映画、ときどき私】 vol. 234
5月のパリ。女性大統領となったアンヌは職務と母親業の狭間で不安に陥っていた。シングルマザーでジャーナリストのダフネは、仕事を優先するあまり子どもたちとはうまくいかない日々。
いっぽう、独身の大学教授ナタリーは教え子との恋愛を楽しみ、小児科医のイザベルは実母との関係にトラウマを抱え、花屋のココは連絡の取れない恋人の子どもを妊娠してしまう。そんな悩みを抱える彼女たちが幸せになるために下した決断とは……。
本作では、職業も年齢も違う女性たちが、それぞれの問題と向き合いながらも幸せを手にするために奮闘する姿が描かれている話題作。今回は、こちらの方に作品への思いについてお話を伺ってきました。
マリー=カスティーユ・マンシオン=シャール監督!
前作『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』で数々の賞に輝いたマリー=カスティーユ監督ですが、本作では自らと同じ働く女性たちにフォーカスし、高い評価を得ています。そこで、悩める女性たちに対するアドバイスや自身の経験についても語ってもらいました。
―今回は、「母性」や「母と子」というテーマに挑まれましたが、普遍的ではあると同時に非常に複雑な問題でもあるだけに、難しさを感じることはなかったでしょうか?
監督 確かに、やりがいというよりも、ストレスを感じることもけっこう多かったわ。というのも、世の中には何十億人という人がいて、その全員が誰かの子どもであるわけだから、何十億通りの異なる親子関係が存在しているということよね。
だから、これだけたくさんのキャラクターを持ってしても、描き切れないんじゃないかというフラストレーションを感じていたの。それくらい複雑なことだと思ったけれど、観てくれた方々は男女問わず、自分の母親や子どもとの“いい関係”について思い出したと言ってくれたのよ。
そんなふうに観客たちの琴線に触れることができたというのを知ったときは、やりがいのあることだったんだと感じたわ。
―さまざまな状況に陥っている女性たちが登場するので、観る人によっては、自分を重ね合わせるキャラクターも変わってくると思いますが、監督自身が共感しているのはどの人物ですか?
監督 私は男性も含めて、どのキャラクターにも共感できたし、それぞれに自分の分身がいるようにも感じているの。でも、近いという意味では、シングルマザーでジャーナリストのダフネかしら。
あと、私自身は母親ではあるものの、独身女性のナタリーが「母親は偉いのよ」と思っている世の母親たちに対して反感を抱くような気持ちも理解できたわ。
パズルのようにしてキャラクターを作っている
―私もナタリーと同じ子どもがいない独身女性として、共感する部分は大きかったです。そんなふうにリアルに感じられるキャラクターを作りあげるうえで、どのような作業をしていったのでしょうか?
監督 キャラクター作りは、いつもパズルみたいなものなの。つまり、自分の友人や親戚、あるいは街の人たちを観察した結果を組み合わせて作り上げているのよ。
たとえば、劇中で子どもがバスでボタンを押そうとしているのに、ナタリーが押して母親が激怒するシーンでは、実際に私に起きたことがもとになっているの。
そのときはバスではなくてホテルのエレベーターのなかだったんだけど、子どもがボタンを押そうとしていることに気がつかなくて、つい押してしまったのよ。そしたら、その母親から怒られたんだけど、殺されるんじゃないかと思ったわ(笑)。
だから、子どもを王様扱いしているような母親は、ときにモンスターにもなり得るんだと感じたので、あのシーンを描くことにしたのよ。
―私も監督と似たようなことがあったので、お気持ちはよくわかります(笑)。ちなみに、ナタリーは子どもを持たないという選択を自らしている女性ではあるものの、社会的にはそういう女性に対する理解がまだ十分とは思えないのですが、監督はどのように感じていますか?
監督 女性に対して「子どもを産むべき」というようなプレッシャーは、何世紀にもわたってあるものではあるけれど、自分がしたいと思うことをするのが一番大事。ほかの人がこうすべきと言っていても、それは自分にとってはあまり意味がないことなのよ。
もし、そういうプレッシャーに悩んでいるのなら、「人生は一度しかないものだから、自分が心地よいと思う生き方をすることが大切なんだ」と毎日思い出すことが必要だと思うわ。
いい母親とは、自分らしく自然でいられること
―そのいっぽうで、母親になったとしても、子どもをうまく愛せなかったり、誰にも相談できずに追い詰められてしまったりする女性もいます。本作でもそういう女性たちの姿が描かれていますが、監督からアドバイスはありますか?
監督 友達や周りの人がみんな自分よりもいい母親に見えたりするものなのよね。私も「自分はあまりいい母親ではないのかも」と感じることがあったわ。そうやって自分を責めてしまうこともあるけれど、実際は何がいい母親かというのはわからないものよね。
そこで私が思ったのは、「自分らしく自然でいられることがいい母親なんじゃないかな」ということ。たとえば、働くことが好きで楽しんでいるなら、その姿を見せることもいいことよね。そういう母親を見ていれば、子どもが大きくなったときに「仕事を楽しむことはいいことなんだ」というお手本になると思うわ。
―とはいえ、仕事を極めることと母親業を両立することは、なかなか大変なことも多いと思いますが、フランスではどのような状況ですか?
監督 働くことと母親であることの両立に関しては問題ないと思うけれど、問題があるとすれば、そういう女性たちに対して援助の仕方がわかっていない人が多いということ。
たとえば、雇い主のほうが「子どもがいる女性は何時に帰らないといけない」とか、「子どもが病気になるかもしれない」といった懸念からいい仕事を与えないということが起きているわよね。そういう部分については、まだまだ課題があると感じているわ。