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土地の記憶を継承しつつ街とつながる 街と家族がほどよい距離感でつながって暮らす

以前から近くに住んでいて街が気に入っていたという映画作家の北川さん。家づくりでは「デザインでこの土地の記憶をつなぎとめこの街ならではの雰囲気を引き継ぐ」ことがコンセプトのひとつとなった。

以前から近くに住んでいて街が気に入っていたという映画作家の北川さん。設計を依頼した吉田州一郎・あい夫妻と敷地の周辺を歩いて、街の良さ、気に入っている部分を紹介して回ったという。
「いっしょに歩きながら、北川さんが “この踏切のこういった風景が面白いんです”と。それが街の風景を映画のシーンのように見ていて新鮮だった。わたしたちも路地に街の面白さが詰まっているのを感じました」と話すのはあいさん。
周辺の路地ではブロック塀が入り組んで立ちそれぞれの家が好みで貼ったタイルが見え隠れするという。「ブロック塀のように構築的なものが密にある一方で、突然パンと空が抜ける場所があったりして心地がいいんです」(あいさん)。そこで「デザインでこの土地の記憶をつなぎとめこの街ならではの雰囲気を引き継ぐことができないかと考えた」(州一郎さん)という。

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3階のダイニング。正面の波板はあえて外部に使う素材を使った。素材のグレーが周囲の色とマッチしている。

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キッチンを階段近くから見る。天井の最高高さは3.6mある。

建築家のお2人との打ち合わせのなかで北川さんは「道路とルーズにつながって暮らしたい」「街とシームレスにならないか」と伝えた。これがまたこの家の設計コンセプトに大きく反映して、街の風景を継承しつつ街に対してプライバシーを保ちながら開いたつくりになった。
「街の塀の間を歩いてきてそのまま1階に滑り込むと、2階は対照的に閉じて囲まれたつくりになっていて、上に光を感じながらさらにのぼって行くと3階は周囲に視線が抜けて空が気持ちよく見える」(州一郎さん)という構成だ。

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ダイニング側から見る。壁を隔てて右にリビングがある。

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ダイニングとリビングの間に段差があり、1段20㎝×2で40㎝の高低差がある。開口からは視線が遠くまで抜ける。

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3階のテラスの一部は2階から吹き抜けている。

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キッチンから見る。ダイニングの奥は1階から吹き抜けていてそこに本棚がつくられている。ダイニングとキッチンの天井には登り梁が並ぶ。北川さんから「どこかに木がほしい」というリクエストが出ていた。

街の記憶は壁の立て方や段差、タイルなどの組み合わせによって継承することを考えたという。そして「行き止まりがなくぐるぐると回れる」と北川さんが表現する回遊できるこの家のつくりは、家族の暮らし方から導かれたものでもあった。
「家族の皆さんが家にいる時間が長いんです。そこで家族同士がつながりつつも距離を保つにはどうすればいいのか工夫しました。3階のダイニングとリビングは空間的には近いけれども間に壁があって気配は遠かったり、あるいは段差を介して居場所を少しずらすなどして回遊空間に変化を与え、滞在時間が長い家族がいかに距離感を保ちながら心地良く暮らせるのかを考えました」(あいさん)

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2階の子ども部屋から見る。戸を開けると2階全体が開放的に。

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右が主寝室。階段の向こう側に木の踏み板が延びていて北川さんの使う机になっている。

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2階の中庭から見上げる。

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浴室はリクエストで大き目のものにした。左のタイルはトイレ、キッチンに貼ったものと同様、奥さんがあいさんと話をしながら決めた。

北川邸ではさらにリビングが1階・3階と2つあることも特徴になっている。これも「距離を保つ」ためのもうひとつの居場所として、北川夫妻のリクエストでもあった。「1階に近所の人を呼んでちょっと集まれる場所がほしい。子どもだけでなくパパも野球をやっているので、おやじの会みたいな、みんなで集まれる場所があったらいいなと。また大きなテレビを壁にかけて家族で甲子園大会とか観たいというのもお話しました」(奥さん)。

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2階から1階の玄関部分を見下ろす。

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本棚は3階まで続く。奥の扉は納戸のもの。

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路地がそのまま入り込んできたような空気感もある1階リビング。右のガレージの間のガラス戸を開けてキャッチボールをしたいというリクエストもあったという。

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