■「未来への提言」は…
―――今お話しいただいた「多様性」や「柔軟性」ということは、第3章で書かれている「未来への提言」にもつながることですかね?
金子:ギスギスしている社会って、生きづらさであったり、個人だけの問題ではなくて、社会全体の問題だと思うんです。
私自身の観点でいうと、女性や子供のことになるのですが、女性の場合、仕事を頑張りたいけど、仕事だけじゃなくて、家庭を持って、子供を育てたいと思ったときに、それが上手くマッチできなくて、どちらか片方だけを選ばないといけないケースもある。でも、そうなってしまうと、どちらもやりたい人の心は満たせないわけじゃないですか。
そういう社会であるがゆえに、人に対して羨ましいと思ったり、自分の生活に不満がある気持ちがいろんな風に悪い方向に行っている気がするので、そこを満たせるような社会、つまり、行政がサポートをやっていくべきだと。
ただもう、私は政治家でもなんでもないので、「社会はここをこうしたほうが良くなるよね。ひいては個人も幸せになるよね」と提言をしています。
―――自分自身が男性だから無意識に享受できていることがあって、でも、それは裏を返せば女性が不利益を被っている可能性のあることでもあると、年齢を重ねることでようやく気づくようになった部分が個人的にはあって。本書を読んで、それをさらに意識しました。
金子:健康のことや法律のことも書いていますが、「女性のため」と言うと、「なんで女性のことだけなんだ」という反応をされる男性もいらっしゃるんですよね。私は「女性だけ生きやすくなればいい」と言っているわけではなくて、女性と子供が生きやすくなれば、結果的に男性にとってもいい社会になると思っていて。
その視点をちょっとでも持ってもらえれば、不妊治療のこともそうなんですけど、子供を授かりたいけど授かれない人たちがいるという現状をまず知ってもらって、「少子化の原因ってまずここなんじゃないか」という気づきになってほしい。
政治家でも実態を知らない人がいるから、「子供をどんどん産んでください」というようなことを簡単に言ってしまうんです。
まずは知ることが大事。女性には女性の良さ、男性には男性にしかできないことがあって、ここの違いをまずしっかりと知った上で、それぞれの特性を生かせていないところを生かせるようにすることで、社会がトータルで良くなると思います。
■日本全体が寛容になるように
―――お聞きしたいことがたくさんあって、本の内容で触れることができなかったところができてしまいました。申し訳ございません。では最後に、今回のインタビュー記事を読んでくれた読者の方にメッセージをお願いしてもよろしいでしょうか?
金子:私に降りかかってきた夫の不倫をどうして許せたのか。実際にはどんなことがあったのか、私が育った家庭環境のこともあって、「許す」という思考回路になったんだということを知っていただいて、「許せない」ことを抱えている人に「自分も似ているところもあるかもしれない」と思って、「許す」という気持ちに働きかけることが何かしらあればいいなと。
あとは、まさに私自身が最中にいる(安倍前総理の辞任に関して、金子さんの発言が物議を醸した)SNS社会の問題。
私は安倍政権の内閣にいたので、安倍元総理のあの弱り切った姿は衝撃すぎて…。その思いが昂ったところがあるので、少し乱暴になってしまって、適切な表現ではなかったのですが、私は「政治家じゃないと政治の話をしたらいけない」なんて一言も言っていないですし、「総理大臣にならなければ政治を語るべきではない」とも一切言ってないです。
一般の方もどんどん政治の話をしてほしいと思っています。今回のあの総理の会見を見て、安倍さんとはイデオロギーも全く逆の蓮舫さんも「お疲れ様でした」と発信していましたよね。
選挙に出て、政治家になって、「日本国のために」という気持ちを持った人が、自分の病気で、しかも同じ病気で二度も諦めなければならない辛さって、想像しただけで、どんなに無念なんだろうって。国会議員をした人ならそれがわかるということを言いたかっただけなんです。
総理という仕事が激務である上に、病気とともにやってきたことを、ちょっとでも配慮してあげたらよかったのになって気持ちで。
安倍さんの政策を批判することは全然あってもいいし、イデオロギーの違いはあっていいんだけど、こと健康のことに関してはやっぱり、総理大臣だって一人の人間だから、その健康を慮ってあげることとか、一人の人間として最低限の敬意を表してほしいなという思いでした。
それも「許す」なんです。批判すべきことは批判する。でも、もっと多様に、総理だから全部批判していいわけではないということも含めて、もう少し日本全体が寛容で、おおらかで、みんなが相手の価値観を尊重できる社会になっていってほしいなという思いを込めて、『許すチカラ』という本を書きました。
(取材・文/しらべぇ編集部・野瀬 研人)