子どもの学校行事が従来の形態に戻ったり、出勤することが増えたりして、対面でコミュニケーションを取る機会が増えた方も多いのではないでしょうか。人と気軽に会えることはうれしいものの、環境の変化にどっと疲れてしまった……ということもあるかもしれませんね。そんなとき、どんな心持ちでいるといいのでしょうか。精神科医の藤野智哉先生にアドバイスしていただきます。
教えてくれたのは……藤野智哉先生
精神科医。産業医。公認心理師。
幼少期に罹患した川崎病が原因で、心臓に冠動脈瘤という障害が残り、現在も治療を続ける。学生時代から激しい運動を制限されるなどの葛藤と闘うなかで、医者の道を志す。現在は精神神経科勤務のかたわら、医療刑務所の医師としても勤務。障害とともに生きることで学んできた考え方と、精神科医としての知見をメディアやSNSで発信中。
『「誰かのため」に生きすぎない』
著者:藤野智哉
価格:1,650円(税込)
発行所:ディスカヴァー・トゥエンティワン
うれしい環境変化も、ストレス要因になる
コロナ禍では、人との触れ合いが減ったことによって、メンタルの不調を起こす人が多くあらわれました。「コロナうつ」という言葉は記憶に新しいですよね。
今後は顔を合わせてコミュニケーションをとる機会が増えていきそうですが、こうしたときにも、モヤモヤや不調は起こるのでしょうか?
精神科医の藤野智哉先生は、「そもそも環境が変化すること自体が、ストレス要因になり得る」とおっしゃいます。
藤野先生 「『引っ越しうつ』や『昇進うつ』という言葉を聞いたことがあるでしょうか。うれしいことやおめでたいことでも、環境変化はストレス要因になり得ると言われています。
これまでオンラインだったことが対面になり、人と会う機会が増える。
対面コミュニケーションがそもそも苦手だった人にとって、しんどい状況になることは想像に難くないですよね。
一方、もともと対面コミュニケーションが得意な人にとっても、対面が増えることがストレスになる可能性はあります。たとえば、『前はもっとうまくやれていたんじゃないか』と感じたり、思ったほど楽しくないと感じたりすることがあるかもしれません。」
久しぶりだから、うまくいかなくて当たり前
対面コミュニケーションが得意な人にとっても、対面が増えることがストレスになり得ると藤野先生。どういう心の仕組みで起こるのでしょうか?
藤野先生 「環境が変化するときには、“役割期待のずれ”が起きやすいといわれています。一般的によく知られているのが、五月病ですね。
『新学期に入ったら、自分はもっとがんばれるはず』
『新年度からはこの人ももっと仲良くしてくれるだろう』
こんなふうに他人や自分自身の能力、役割に期待して、場合によっては周囲も自分に期待していることがあるでしょう。しかし想像通りに現実が進まず、期待と現実がずれてくると、そのずれがしんどくなっていくんです。
たとえば、久しぶりに飲み会があるとします。きっと楽しいはず、盛り上がるはずと期待して参加したのに、うまく話せなくて失敗することもあるでしょう。実際そういう話はよく耳にします。でも、よく考えてみれば、久しぶりなんだから、うまくいかなくて当然なんですよね。
だから、環境が変化するときには、あまり気合いを入れすぎないことが大事です。できる範囲でがんばろうかな、くらいの気持ちでいられるといいかなと思います。
それに、たとえ失敗したとしても、しんどくなる必要はないんですよ。」
自分にとって、いちばん身近な味方は「自分自身」
楽しみにしていた場で思っていたように振る舞えないと、つい深く落ち込んでしまいそうですが、「それは当然のこと」「しんどくならなくていい」と藤野先生。うまくいかなかったときこそ、「自分が自分のいちばんの味方でいてほしい」とおっしゃいます。
藤野先生 「自分が自分の敵だと、失敗したときに『お前まだまだだな』『全然ダメだな』と、自分に厳しいことを言って、自分自身をさらに追い込んでしまいます。
もし誰かが落ち込んでいたとしたら、きっと『全然ダメだったね』ではなく、『大丈夫だよ』と励ますはずですよね。それと同じで、自分が自分のいちばんの味方だったら、『久しぶりだから仕方ないよ』『また今度がんばろう』と、自分自身を励ますほうにもっていけます。
だから、自分のいちばんの味方は自分だってことを、ときどき思い出して、人にするように自分を励ましてもらえたらって思います。」
「自分のいちばんの味方は自分」という藤野先生の言葉を胸に、あまり大きな期待をせず、ゆるゆると変化をのりきっていきたいですね。