自分を見失いそうになった時に…マーク・トウェイン『トウェイン完訳コレクション 人間とは何か』
世界的文豪が匿名で遺した伝説の教え。
人間は〈外部の扶(たす)け〉なしには何も生み出せないと語る〈老人〉に、〈若者〉は反発し、論戦を挑む。「老人の主張は“人間は機械だ”。誰もが生来の気質や環境、つまり外部の力に影響されて生きているのだから、何かを自分の力で成し遂げたように考えるのは思い上がりだと。逆に言えば、優位な環境や特別な才能を持たない自分を“ガチャにハズレた”ように思って自己肯定感を下げてしまう必要はないわけです。シニカルでありながら、反骨精神もある強烈なアンチテーゼが展開され、平凡な人間にとっては救いとなる言葉がたくさん」
大久保 博 訳/角川文庫/¥726
マーク・トウェイン(1835‐1910) フロリダで生まれ、少年時代から職を転々。1865年に『ジム・スマイリーと彼の跳び蛙』で脚光を浴びる。『トム・ソーヤーの冒険』でも知られるアメリカ文学の先駆者。
失恋をして立ち直れない時に…坂口安吾「恋愛論」(『日本文化私観』に所収)
恋と愛の違いを説く“精神の巨人”の名エッセイ。
「恋愛論」は、恋や愛をめぐる日本語やその概念を説明しながら、恋愛の本質に迫るエッセイだ。「恋愛論とありますが、むしろ失恋した直後の慰めになる失恋論。恋愛は一時の幻影、恋愛では人は満たされない等々、恋愛の愚かさを笑うのですが、〈恋愛は、人生の花であります。いかに退屈であろうとも、この外に花はない〉と、恋愛がなければ人生自体の意味がなくなるようなものだとも書かれているんですね。人間は不条理を受け入れ、それを乗り越えることで成長し、人生の意義を見つけ出していく生きものなのだというエールに、励まされます」
講談社文芸文庫/¥1,540
坂口安吾(1906‐1955) 小説家。第二次世界大戦前から戦後にかけて活躍。戦後の本質を鋭く洞察した随筆「堕落論」、小説「白痴」の発表により、地位と人気を確立。無頼派と呼ばれる作家のひとり。
アバタローさん 書評YouTuber、Book Community Liber管理人。早稲田大学文学部卒業。趣味の読書の延長で立ち上げたYouTubeチャンネルの登録者数は現在38万人超。著書に『自己肯定感を上げる OUTPUT読書術』(クロスメディア・パブリッシング)などがある。
※『anan』2023年9月13日号より。写真・中島慶子 イラスト・倉永和恵 取材、文・三浦天紗子 構成・菅野知子
(by anan編集部)