今週のかに座の運勢
illustration by ニシイズミユカ
何ばしとるか?
今週のかに座は、数々の「無名の人生」に思いを馳せていくような星回り。
『背戸畑の芋名月となれりけり』(木下夕爾)という句のごとし。ここに詠まれているのは、人に自慢したくなるような名誉とは無縁の仕事。けれど、風景の一部となってひそかに人びとの暮らしに寄り添い、支えてきたなくてはならない仕事。そして、そういう仕事に黙って勤しんできた人間の尊さでしょう。
こうした仕事観は現代社会では忘れ去られつつありますが、歴史的には仕事に打ち込んでいくうち、次第に我が消えていくことこそが理想とされた時代の方が長かったのではないでしょうか。
あなたもまた、すすんで“芋くさい”人間になっていくべし。
今週のしし座の運勢
illustration by ニシイズミユカ
で……また戦い始めた。
今週のしし座は、劇的な展開の欠如した人生に、それでもまだ手を尽くしていこうとするような星回り。
初出・初演から50年以上も経った今もなお、さまざまな言論人から繰り返し言及され、無数の解釈が生み出され続けている、サミュエル・ベケットによる不条理時演劇の金字塔『ゴドーを待ちながら』には、ストーリーの起伏はまったくありません。
現代において、「平々凡々たる今日」を生き続けなければいけない私たちはどうすればいいのか。その指針となる描写が第一幕の冒頭に出てきます。
あなたもまた、昨日とまったく同じではないが同じような一日である今日を、まだまだできることがあるんだと、自分に言い聞かせていきたいところです。
今週のおとめ座の運勢
illustration by ニシイズミユカ
夜に潜む
今週のおとめ座は、分かりやすく目に留まりやすい豊かさを追おうとする現代的文脈から、外れていこうとするような星回り。
『暗がりをともなひ上がる居待月』(後藤夜半)という句のごとし。暗がりや闇の感覚というのは、煌々としたあかりに照らされた街の暮らしに慣れきってしまった現代人が、すっかり失ってしまったものの一つと言えるでしょう。
暗がりの中では五感が鋭くなるだけでなく、昼の人間たちの活動に伴う騒音や生活臭などからも遠ざかるため、かすかな音やにおいを自分でもびっくりするほど感じ取ることができるはず。
あなたもまた、暗がりの中に埋もれた豊かさを再発見していくべし。
今週のてんびん座の運勢
illustration by ニシイズミユカ
広げすぎた円を縮める
今週のてんびん座は、なにかと誰か何かに奪われがちな時間との付き合い方を見直していこうとするような星回り。
古代ローマの哲学者セネカが晩年に著した『道徳書簡集―倫理の手紙集―』には、人間の一生をどのように考えるべきか、どう生きるかという主題がそこかしこに顔を出すのですが、そこには「すぐれた人は自分の時間が少しでも他人に奪われることを許さない」といった時間の重要性を示唆する文言が頻出します。
「われわれの全生涯がいくつもの部分から成り立っており、小さな円を真ん中にして次々に大きな円に囲まれています」は、今のてんびん座にふさわしいと思われる一文。
あなたもまた、幾重にも重なる同心円を念頭に、たとえ今日が人生最後の一日だったとしても後悔しないで過ごせたかどうかを、あらためて念じてみるといいかも知れません。