今週のかに座の運勢
illustration by ニシイズミユカ
ただじぶんがわからなくなった
今週のかに座は、<人生の素顔>と向きあう時間をゆっくりと味わっていこうとするような星回り。
小説家の保坂和志は「人生を感じる瞬間」というエッセイのなかで、人が無味乾燥な退屈さを避けるべく、楽しいことを探し続けたり、楽しさの中で誰かと笑いあっているときが過ぎれば、今度はあまりに人工的でハリボテのような幸福観や寒々しい不自然さ目立つのではないか、と述べています。
「動物たちにとっての<自然状態>とは<飢えている状態>」であり、飢えを奪ってしまったら彼らは自由ではなくなってしまうのだと指摘したうえで、「家の中の猫たちだけでなく、ノラ猫たちも含めて、すべての猫たちが私には<人生の素顔>を見て毎日を暮らしているように見える」とのこと。
あなたもまた、そんな楽しい訳でも、労働している訳でもない、しかし「それが人生なんだ」としか言いようがないような時間と向きあっていくべし。
今週のしし座の運勢
illustration by ニシイズミユカ
猫の尻尾の運動
今週のしし座は、都会なら都会なりの隠遁術を実践していこうとするような星回り。
『木がらしや地びたに暮るる辻謡ひ』(小林一茶)という句のごとし。
大仰に人を避けたり、無視したりすればかえって悪目立ちしてしまうし、かと言って四六時中にこにこしていたり、誰にもでもよい返事をしているのではとても身がもたない。要はその中間の方法を取ることができるかどうかが問われてくるのです。
あなたもまた、さながらネコが呼びかけろくに返事をしないかわりに、尻尾でもって反応する程度のつれなさを心がけていくべし。
今週のおとめ座の運勢
illustration by ニシイズミユカ
亡命者と同じように
今週のおとめ座は、真に知的な思考や行動の原理を打ち出さんと試みていこうとするような星回り。
パレスチナ出身の批評家、研究者エドワード・サイードは、自ら選択したのではなく授けられた名前のなかに、すでに英国王子に因む名でアングロ文化・英語文化への関係を象徴する「エドワード」と、アラブ世界を象徴しつつ出自についての曖昧さを残す家系名である「サイード」という折り合いえない違和を含んでいました。
彼の発言には、知識人論でありながらも、同時に現在のような混沌とした世界情勢下においては、脱西欧化され、非中心化された「世界市民」として、何を試みていくべきなのかをめぐって大変重要な示唆を含んでいるように思います。
あなたもまた、「うつろいやすさと漂泊のなかにとどまり続けること」の実践ということがテーマになっていきそうです。
今週のてんびん座の運勢
illustration by ニシイズミユカ
月下の虫
今週のてんびん座は、脳裏深くに呪文を刻んでいこうとするような星回り。
『夜竊(ひそか)に虫は月下の栗を穿つ』(松尾芭蕉)という句のごとし。「月下」とは絶え間ない自問自答や迷いが晴れ、暗闇のなかでひとり追い求めてきた真実が照らし出された世界であり、さながら「はかり知れない光(アミターバ)」に由来をもつ阿弥陀仏の浄土のごときものを指しているのかも知れません。
つまり、生きている限り、私たちは栗を穿ち続けることになる訳ですが、南無阿弥陀仏という名号の力を通じて、その臨終の際には月光ごとき阿弥陀仏の来迎が待っているのだ、と。
あなたもまた、自分自身を虫けらのごとき何の価値もない存在と思う代わりに、尊い仏の名でもって呼びかけていくべし。