猫の猫らしい行動に、自分の生き方を重ねてハッとする瞬間があります。地域計画学研究者の江口亜維子さんもその一人。ある台風の晩、江口さんの家に避難してきた猫一家。雨風が止み、母猫だけが外に出て戻って来ると…!
「ヤンママちゃん」の子育て
12年前、ある団地の一角で、母猫を先頭に続くよちよち歩きの4匹の子猫たちが、地域猫としてご近所さんたちから可愛がられていました。地域計画学研究者の江口亜維子さんも、この猫一家を見守っていた一人。4匹の子猫のうち、後頭部の模様がウリ坊の柄だったことから「うり」(現在12歳・メス)と呼んでいた子を引き取り、一緒に暮らし始めました。そのうりがまだ母猫や兄弟たちと一緒に、外で暮らしていた頃のお話です。
「うりの母親は、ご近所さんたちから『ヤンママちゃん』と呼ばれていて、まだ2歳にも満たないような小柄で若い猫だったんですけど、本当にしっかりとしていて。毎晩のように子猫たちを連れて、うちにご飯を食べにやって来るんですけど、母親は子猫たちがお腹いっぱい食べ終わるまで、後ろでじっと待っているんです。自分もおなかが空いているだろうに、お母さんってすごいなと感心しました」
一家でお世話になったお礼に…!
「ある時は、家の前で、母猫がネズミをくわえていたので、何をするんだろう?と思って見ていたら、ニャオーとひと鳴き、子どもたちに集合をかけ、狩りの練習なのか小さなネズミで遊ばせていました。
また、大きな台風の晩には、一家がうちの軒先で雨宿りをしていたので、家の中に入れて避難させたんです。夜中になって雨風がおさまると、母猫が外に出たい素振りを見せたので出してやると、しばらくして戻って来た母猫は、大きなネズミをくわえていて、私の足元まで持って来てポトッと。腰が抜けました(笑)。でも、きっと家族を助けてもらった、最大限のお礼だったのだと思います」
ヤンママちゃんから教わった野性
江口さんがうりの母親から教わったこと、それは「野性」だと言います。
「誰に教わったわけでもないのに、生まれた瞬間から生きるのに必要なすべてが備わっているように見えました。自分一人で生きる術ばかりでなく、子どもを産み育てる術まで。カルガモ親子のように、母猫にくっついて歩いていた子猫たちが、乳離れの頃になると、今までと同じようにおっぱいを飲むために後を追おうものなら、容赦なくワンツーパンチを繰り出して、一人立ちをさせようとしていました。動物って、野性ってすごいなと。それでもママ大好きっ子の兄猫だけは、めげずに母親の後を追い、ずっと一緒にいましたが(笑)」
子育てに限らず、人と人との付き合いにおいても、ルールやマナーばかりが取り立たされる昨今。私たち人間にも「誰に教わったわけでもないのに、生まれた瞬間から生きるのに必要なすべてが備わっている」のだとしたら、親と子が、人と人が、もっと自由に、もっと豊かに繋がれるはずだと思います。さて、次回は、うりの別名でもある「妖怪・はばみちゃん」のお話です。お楽しみに!
photo / 江口亜維子
地域計画学研究者・江口亜維子
(千葉大学大学院 園芸学研究科 博士後期課程)