刑事、医師、弁護士が主人公になるシーズンもあるが、2019年の夏はいろんなタイプのドラマが制作された印象が強く、「私はこれが好きだった」は分散していることだろう。そんな“ドラマの夏”を振り返ってみる。
執筆者:竹本 道子
刑事、医師、弁護士が主人公になるシーズンもあるが、2019年の夏はいろんなタイプのドラマが制作された印象が強く、「私はこれが好きだった」は分散していることだろう。そんな“ドラマの夏”を振り返ってみる。
等身大の主人公たちがキラキラと輝いた夏
高橋一生と中村倫也の演技を堪能できた『凪のお暇』
/画像はAmazonより
圧倒的な存在感の女性主人公が大活躍するドラマもあるが、今クール印象的だったのは私たちの隣にいそうな女性主人公が、回り道しながら成長していく姿を描いたドラマ。金曜10時の『凪のお暇』(TBS系)で黒木華が演じた大島凪と『これは経費で落ちません』(NHK)で多部未華子が演じた森若沙名子が、私たちの心をグイグイ動かした。
仕事のこと、恋のこと、人生のこと、完全無欠ではない主人公たちの萎えや奮起が鮮明に描かれている。はたらく世代の女子ドラマは良作が多いが、支持される作品はこの部分が濃厚。黒木華と多部未華子という、名手が魅せてくれた。
光と空気を鮮明に描いた『凪のお暇』と、天天コーポレーションというブランドをつくり上げた『これは、経費で落ちません』。脚本はもちろん、音楽、照明、美術、スタッフたちの心をこめての仕事ぶりも素晴らしかった。
懸命に乗り越える主人公たちにエールをおくった夏
社会人ラグビーの素晴らしさに加え、スポーツのあり方までを
力強く描いた『ノーザイド・ゲーム』/画像はAmazonより
気持ちのいい涙があふれた『ノーサイド・ゲーム』。これを見てラグビーW杯をさらに楽しむことができた視聴者も多いことだろう。WOWOWのドラマW『プラチナタウン』でも演説の巧さが光っていた大泉洋が、さらに凛を増し挑む姿勢を実に人間らしく演じた本作。私たちの知っている日曜劇場の過剰な部分がそぎ落とされたこと、ラグビー経験者の登場がスポーツの本来の素晴らしさをありのままに見せてくれたことも加わり、夢中で楽しめた。価値観の不安定な時代だからこそ、「正義は勝つ」をまっとうするドラマには大きな意味がある。
月9『監察医朝顔』(フジテレビ系)も好評だった。視聴者がドラマに何を求めているのか、どんなドラマに心を動かされるのかを見事に体現した1作と言えるだろう。哀しみを力強く乗り越えようとする朝顔(上野樹里)、エプロン姿で「召し上がれ」と笑う桑原真也(風間俊介)、大丈夫だと何度も何度も繰り返すお父さん(時任三郎)、そんな家族に祈りながら「がんばれ、踏ん張れ」とエールを送り続けたこともまた印象的だった。
凶悪犯が大暴れ!ハラハラドキドキの夏
まさにタイムリミットサスペンス。渾身の演技に手に汗握った
『ボイス 110緊急指令室』/画僧はAmazonより
謎解きではなく、猟奇殺人犯との手に汗握る闘いに息をのんだ事件ドラマが多かった今クール。戦慄の演技で視聴者の背筋をゾクゾクさせたのは『ボイス 110番指令室』の伊勢谷友介。最終回での唐沢寿明演じる刑事との張り詰めた対決は、作品のテーマでもあるタイムリミットサスペンスの着地として素晴らしかった。
『サイン ー法医学者 柚木貴志の事件ー』の森川葵もつかみどころのない笑顔で薄気味悪い空気を創出。『警視庁ゼロ係~生活安全課なんでも相談室~SEASON』の不思議な能力を有するサイコパスを演じた中野裕太も謎めいた雰囲気で作品を盛り上げた。『わたし旦那をシェアしてた』にも登場したサイコパス。この夏のひとつの特徴と言えるだろう。
一方『あなたの番です』は、視聴者の黒幕検証の盛り上がりにテレビパワーを再認識できたことは特筆すべきことだが、連続殺人犯の狂気の描き方や最終回のあり方など制作サイドと視聴者のすれ違いを含め課題が残った。
愛されキャラにグイグイ魅かれた、泣いて笑った夏
許されない恋をベースに素敵にカラット大笑いした『ルパンの娘』
/画像はAmazonより
すべての登場人物が物語のなかでエネルギッシュに生きるドラマは意外に少ない。しかし、それが完成されたとき、人はドラマにクギ付けになる。
テレビのおもしろさを爆発させたのが『ルパンの娘』。どのシーンもこだわり抜いた完成度で、大笑いしながら主人公の悲恋に涙してしまう緩急は圧巻だ。大貫勇輔演じる円城寺輝のザ・ミュージカルショー、映画とアニメのオマージュ、衣装、アクション、回想シーン、すべての要素をツッコミではなく作品の世界観へと昇華させたプロの技に感謝したい。
贅沢なキャスティングだった『べしゃり暮らし』の登場人物たちにも心を大きく揺さぶられた。笑いにかける抑えきれない若い熱量がまっすぐ伝わってくる気持ちよさと、漫才コンビを演じた駿河太郎と尾上寛之、放送作家の山口祥行と波岡一喜らベテラン勢の味のある演技が生み出す躍動感は忘れない。この先を必ず見せてほしい快作だ。
「見てよかった」の満足度が高い作品が多かった夏ドラマ。心に残る作品があるということは素晴らしいことである。
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