いつの時代も人の心を豊かにしてくれるものとして欠かせないのは、創造力。本来は周囲に制限されることなく自由なクリエイティビティを誰もが持っているはずですが、社会に出ると、創造力を発揮させるのが難しいと感じている人も多いのでは? そこで、今回は世界中の著名人たちに「あなたはなぜクリエイティブなのですか?(Why are you creative?)」というシンプルな質問を30年以上も投げかけ続けているこちらの方に、“クリエイティブになるための秘訣”を教えていただきました。
ドイツのハーマン・ヴァスケ監督!
【映画、ときどき私】 vol. 268
映画監督としてのみならず、ドキュメンタリー作家、プロデューサー、一流企業のCM製作など、幅広い分野で活躍しているヴァスケ監督。大学時代からクリエイティビティの意味について研究し始め、デヴィッド・ボウイやホーキング博士、ダライ・ラマ、ネルソン・マンデラといった超大物たちに、ときには突撃取材を敢行してきた強者です。
日本からも北野武、オノ・ヨーコ、山本耀司、荒木経惟といった方々も登場しており、興味深い内容のドキュメンタリー『天才たちの頭の中 ~世界を面白くする107のヒント~』ですが、今回はそんな監督に逆取材をしてきました!
Why are you creative?
―やはりまずはお決まりの質問から始めたいと思いますが、今回は監督と同じスタイルで行きたいので、答えを書くための紙とペンも持ってまいりました。では、Why are you creative?
監督 (紙の左端に大きな楕円をひとつ書き)はい、まずはこれで。
―これは!? ちょっと深すぎて私には理解が及ばないのですが、一体どういう意味でしょうか?
監督 アルファベットのO(オー)ですよ。これから質問ごとに一文字ずつアルファベットを追加して、ある英単語にしたいと思います。なので、次の質問をどうぞ!
―なんと、いきなりクリエイティブな展開ですね(笑)。私にとって初めての取材形式となりますが、制限時間内に単語を完成させられるようにがんばります!
監督 (笑)。
ジェフ・クーンズとハーマン・ヴァスケ監督
―私も監督同様にインタビューを中心に活動しているので、この3~4年で300人以上の映画監督や俳優のみなさんに取材をしてきました。クリエイティブな方々のお話を聞くことが何よりも刺激的で楽しいのですが、その反面「私自身はクリエイティブではない」という強いコンプレックスが自分のなかにあることにこの作品を見て気がつきました。人は誰でも、いくつになってもクリエイティブになることは可能なのでしょうか?
監督 (アルファベットのBを書きながら)もちろんです。クリエイティブになるための秘訣は、自分のなかにある“子どもらしさ”とつねに繋がっていること。それは純粋無垢な気持ちや好奇心とも言えますが、それを意識していれば、18歳だろうと、100歳だろうと、つねに創造性豊かでいることができます。
では、「創造性とは何か?」。辞書で引いてみると、「何もなかったところに新しく作ること」と定義されていますが、僕は実際にそれを体現した建築家のオスカー・ニーマイヤーに会ったことがあります。彼はブラジルのジャングルのなかに新しい都市を作った人で、会ったときはすでに102歳でしたが、本当に生き生きとしていて、おもしろいし、遊び心もあるし、年齢や時代を感じさせないクリエイティブさを持っていると感じました。
そのほかにもご高齢で現役の方々にたくさん会いましたが、どなたも自分のなかにある子ども心と繋がっている方ばかり。つまり、それを失ってしまうことが、創造性を失うことでもあるのです。
実際に行動に起こすことが何よりも大事
北野武
―ということは、誰のなかにもクリエイティビティは存在しており、それを生かすも殺すも自分次第。生まれながらにしてクリエイティブな人間とクリエイティブではない人間にわかれているわけではないということですね?
監督 質問を受け付けたので、次はSを書きますね。そうですよ! ただ、クリエイティブな人とそうではない人の違いはあります。クリエイティブではない人というのは、アイディアが浮かんだとき、それについて考えるし、他人に話もするけれど、実際の行動に起こさない人のことです。
ダミアン・ハーストというアーティストが、「君のこの作品は僕にでも作れそうだ」とあるジャーナリストに言われたことがありますが、そのときに「でも、あなたは作ってはいませんよね?」と切り返したことがありました。そこにこそ、違いがあると考えています。
つまり、クリエイティブではない人は、“自分にもできると思うけどそこで終わってしまう症候群”ということですね(笑)。だからこそ、周りにあらがってでも行動に移すことが大事なのです。
―なるほど。非常にわかりやすい違いですね。
監督 僕は誰もがクリエイティブでいてほしいと思っているんですが、多くの人が自分の心のなかに気が小さい自分がいて、それが「いやいや! もし、こんなのを作っちゃったら周りからなんて言われてしまうだろう」とか「問題になって炎上してしまうかも!」と考えて、行動することをやめてしまうんですよ。
もうひとつエピソードがありますが、広告界で有名なディレクターのジョージ・ロイスが「ジョージ、気をつけて(George, be careful)」という本を出版したときのこと。それは、彼の両親がいつもジョージに言っていた言葉だったといいます。
そんなジョージが僕にサインした本をくれたのですが、そこには「ハーマン、無鉄砲であれ(Hermann, be reckless)」と書いてありました。彼は僕に「慎重になるのではなく、やってしまえ! 行動に移すことが大事なんだ!」と伝えてくれたのです。
映画のなかでもいろんな人の話がありましたが、みんなに共通して言えるのは、「自分は自分である。そして、人と違っても全然かまわない」ということ。クリエイティブにおいては、とにかくやってみるという行動力が必要だと思います。