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庭と一体となる暮らしランドスケープに溶け込むハーフビルドの箱

インテリア

多摩御陵へと続くケヤキ並木の参道沿い。ランドスケープデザイナーの石川洋一郎さんは、風景に溶け込む家をハーフビルドで建てた。

多摩御陵へと続くケヤキ並木の参道沿い。自然に恵まれた、神聖な空気感の漂うこの場所に、ランドスケープデザイナーの石川洋一郎さんは4年前に自邸を構えた。
「この辺りは風致地区なんです。まわりの景観にふさわしい家を建てることが求められる中で、風景をつくる人間として何ができるかを考えました」。
ニオイシュロランをはじめ、世界各地からのグリーンが生い茂る庭に囲まれて、焼杉の外壁の家が佇んでいる。
「庭と家をセットで考えました。リビングからインとアウトをどのように形づくるかを大事にしましたね」。
ベタ基礎のレベルにコンクリートを敷いた土間のようなLDKから、そのまま地続きにつながる庭は、石川さんと、ガーデンデザイナーである妻・メアリーさんがデザイン。建物の設計は「shushi architects」の吉田周一郎さんに依頼した。
「イメージしたのはBURN(農家の納屋)です。作物を育てて保存するための簡素で無駄のないデザインを、石川さん家族の暮らしにどうフィットさせるか試行錯誤しました」と吉田さんは言う。

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コンクリート敷きの土間のような大空間のLDK。南面に大開口が設けられ、庭との一体感が感じられる。

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モンステラやサンスベリアなどインドアグリーンが、庭との境界を曖昧にする。玄関は左手のシューズクローゼットの奥に。正面のソファーはハンス・J・ウェグナー。

納屋のようなシンプルな箱型の家を包む焼杉の外壁は、石川さんがセレクトした。
「風景に溶け込む家にすることを考えたときに、自然素材は必須でした。焼杉なら焼いて炭化させることで経年変化のデメリットを防いでくれるし、メンテナンス性もいいんです」。
驚くのは、その杉の木をDIYで焼いたということ。
「山梨の知り合いに間伐材を製材してもらい、自ら実加工をし、現地で焼いて乾燥させて持ってきました。コストの面もありますが、自分がやりたいことを少しずつ、手をかけて形にしていきたい。だから箱だけを建ててもらって、未完の状態で引き渡してもらいました。今も進行中なので、この家はまだ竣工していないと思っています(笑)」。
住み始めた時は、仕切りもドアもない状態だったという。石膏ボードのままの壁に漆喰を塗ったり、本棚を作って空間を仕切ったり、暮らしながら少しずつつくりあげてきた。
「工事中も現場に入ってDIYをしていました。建築家、工務店の理解ができないとなかなかできないことですが」。

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庭とダイレクトにつながるリビング。コンクリートが蓄熱して冬も暖かい。セルジュ・ムーユのウォールランプの下は、Bang&Olufsenのスピーカー。

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地域に向けて開かれるファサード。南面のみ杉材で、他の3面に焼杉を使った。

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腐食しにくく約50年の耐久性があるという焼杉の外壁は、断熱性、清浄効果も高い。

「動物の巣のように、住まいは主(あるじ)自身でつくられるのが本来の姿です。石川さんはデザインも施工もできる本来の住まいの作り手だと感じているので、こちらは空間構成、構造、工法、断熱など性能の設計に専念して、石川さんが自ら造りあげる“ハーフビルド”にお任せしました」(吉田さん)
建築家・吉田さんは、隣家を避けて明るい日差しがリビングに届くよう、南面の西側に階段の吹き抜けと2階までの開口を設けることを提案。
「庭に面した南向きの大開口は、太陽が高い位置を通る夏は日が中まで差し込まず、逆に冬はリビングの奥まで差し込んでくれて、効率的です。冬はペレットストーブ1台で、蓄熱も長く続き暖かく過ごせます」。
リビングの奥にあるキッチンは、石川さんがデザインし、家具職人がモルタルの天板にクルミの木の面材で造作。壁にはイタリアから輸入した大理石をDIYであしらった。
「キッチンの窓から庭の景色を眺めるのが好きなんです」。
というのはアメリカ出身のメアリーさん。フランス、ニースで活動していた石川さんと出会い、結婚。南仏のアトリエのように光と緑に包まれたこの家で、双子の長女サフラン(蒼)ちゃん、次女インディゴ(藍)ちゃんとともに、ここでの暮らしを楽しんでいる。

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階段下の空間を利用してペレットストーブを設置。木質ペレットを燃料とするため、エコ暖房として注目されている。ソーラーパネルの設備も備え、エコロジーな暮らしを追求。

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ダイニングキッチンも庭続きの土間に。テーブルは天板にカットした脚を組み合わせて作ったもので、今後はより大きいものに作り変える予定。

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大理石、モルタル、クルミの木の異素材がミックスされたキッチン。右手の食器棚もDIYで。

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窓越しのグリーンが美しいキッチンで。

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ガラスの床を介して、2階の気配も感じられる。

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1階の奥にあるアトリエでは、メアリーさんが教室を開いたり、子供たちが遊んだり。

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1階のバスルームは、モルタルを使ったシンプルで清潔感のある空間。洗面台も造作。

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ハリー・ベルトイアのワイヤーチェアーは、メアリーさんがかつてアメリカで使っていたもの。

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