毎日、騒々しいなかで忙しい生活を送っていると、ときには心が洗われるような映画に癒されたいと思うもの。今回は、そんなときにオススメしたい作品をご紹介します。それは……。
子どもの瑞々しさが詰まった注目作『泳ぎすぎた夜』!
【映画、ときどき私】 vol. 156
青森の山あいにある小さな町に暮らす4人家族。しんしんと雪が降り、ひっそりと静まり返るなか、漁業市場で働く父親は、夜明け前にひとりで仕事へ行く準備をはじめていた。しかし、この日に限って目を覚ましたのは、6歳の息子。父親が出かけたあとにクレヨンで魚の絵を描いていた。
そして翌朝、うつらうつらしたままの少年は、朝食を摂った後に登校するが、学校へは向かわず、雪の中をさまよい歩くことに。父親に自分の描いた絵を届けようと思ったのか、漁業市場を目指す少年の新しい冒険がはじまった……。
青森を舞台にした本作は、昨年のヴェネチア国際映画祭でオリゾンティ部門に出品されるなど、世界的にも高い評価を得ている作品。そこで今回は、共同監督として企画から立ち上げたこちらの方々にお話を聞いてきました。それは……。
ダミアン・マニヴェルさん&五十嵐耕平さん!
フランス出身のダミアンさんと静岡出身の五十嵐さんという日仏の若き才能が合わさったことによって生まれた作品ですが、今回はその裏側やお互いのことについて語ってもらいました。
2014年のロカルノ映画祭で偶然出会ったというおふたりですが、その後一緒に映画を撮ることになったきっかけは?
五十嵐さん ダミアンが日本に来ることがあり、何度か会っているうちにどんどん仲が深まっていった感じなんですけど、実は2015年に新宿の安い居酒屋で夜中に飲んでいるときに酔っぱらってなんとなく決まったんです。だから、最初は飲みの席の口約束ですね(笑)。
ダミアンさん 前の日からずっと2人で映画の話をしていて、どういう映画を撮りたいかというの考えていたんですけど、酔っぱらっていたので「じゃあ一緒に映画作りましょう!」みたいな感じでしたね(笑)。
似ているから仲良くなれたのか、真逆だからこそ惹かれるのか、おふたりの関係性はどのような感じですか?
五十嵐さん なんとなく空気感は似ていると思うんですけど、ディープなところにいくと全然違うんですよ。というのも、映画を撮っているときや性格はまったく違うんですけど、考えていることの目標には共通点があって、そこは似ているような感じがありますね。普通は監督同士だとなんとなくライバル心みたいなのがありますけど、ダミアンとはそういうのはないです。
ダミアンさん 多分、同じくらいの年齢で好きな映画もだいたい同じような感じだからお互いを理解しやすいんだと思います。映画の世界には競争心みたいなのはたくさんありますけど、五十嵐さんとは友だちでもあるので、僕たちにはそれはないですね。
言葉も文化も違うなか、自分にはない相手のいいところ、尊敬しているところがあれば教えてください。
ダミアンさん 撮影のときはみんな忙しいし、ストレスもたくさんあるんですけど、問題が起きたときでも五十嵐さんはすごく静かでまじめ。だから、本当にびっくりしましたし、感情のコントロールは素晴らしいと思いましたね。
五十嵐さん ダミアンは、全部の可能性を最後の最後まで確かめるんです。つまり、リスクはあるけど自分にはわからない可能性があるかもしれないということをいつも考えていて、突っ込んでいくんですよ。だから、ダミアンのあきらめないチャレンジ精神はリスペクトしているところですね。
五十嵐さんが以前仕事で行った際に気に入ったという青森の弘前市が舞台ですが、魅力を感じるところは?
五十嵐さん 東京から車で行くと、とにかく静寂。弘前はもともと城下町の文化的な場所なので、もちろん人もたくさん生活しているんですけど、いったん外に出ると雪で全部が真っ白で誰もいないようにさえ感じるんですよ。そういう文化的な面と生活の面とのコントラストがすごくおもしろいと思いました。
たびたび来日もしていて、日本語も流ちょうなダミアンさんですが、初めて弘前に着いたときの印象は?
ダミアンさん 僕はいつも映画の撮影で新しい場所へ行くと、友だちと関係性を築くように時間がかかるほうなんです。なので、今回も青森に着いてから、「すごくきれいだけど、どうやってこの風景を撮ろうか?」とわからなくて、少し怖かったんですよ。でも、毎日同じ風景を見ているうちにわかるようになっていった感じですね。
撮影で1か月半も弘前にいて、カルチャーショックを受けたことはなかったですか?
ダミアンさん 今回は、仕事をしてから銭湯に行って、またみんなと次の日のことを考えるみたいな毎日のルーティーンがあったから、特にそういうことはなかったかな。それよりも、自分の考えを日本語で伝えないといけなかったりするほうが大変だったかもしれないですね。
でも、普段僕はパリに住んでいるので、青森みたいにすごく静かで、毎日早起きをして雪かきをしている田舎の生活には驚きもありました。もちろんポジティブな意味で。僕は本当に青森が好きなんです。
今回は子どもが本来持っている感情や動きを撮りたかったというだけに、プロの子役を使わないと決めていたおふたりが決行したのは、駅前のショッピングモールや音楽イベントで子どもたちを観察し、気に入った子に声をかけるという驚きの方法。そのなかで運命の出会いを果たしたのが、本作で主演を務めた古川鳳羅(こがわたから)くん。