ラーメン店って、子ども連れではなんとなく入りづらい...。店の前で匂いにつられながら、大好きなラーメンを諦めてしまうのは子育て中の親あるあるです。ところが、次々と子連れウェルカムを表明するラーメン屋が。思い切ってのれんをくぐってみませんか。
国内に128店舗を展開するラーメン店「一風堂」は2022年11月19日、「いい育児の日」に合わせてウェブクーポン「カルガモ割」の発行をはじめます。12月4日まで国内の全店舗でクーポンを提示すると、ラーメン1杯につき替え玉1玉または玉子1個が無料でサービスされます。
クーポンをもらえる条件は「カルガモプロジェクト」に賛同すること。このプロジェクトは、子ども連れも気兼ねなく外食できる社会を目指すためにスタートし、11月18日時点で28の企業や団体が賛同しています。子ども連れの人もそうでない人も、プロジェクトに賛同すれば期間中に何度でもサービスを受けることができます。
一風堂の担当者はこう話します。
「カルガモの親鳥のうしろをひな鳥がついて道路を歩く姿から着想を得て、のびのびとした子育てや、それを取り巻く優しい社会の実現を願う想いをこの名前に込めました。まずは一風堂の店舗から、お子様連れのお客様が過ごしやすい空間を目指します」
子ども用の椅子も用意
ラーメン店といえば、カウンターしかなかったり席と席の間が狭かったりと、ベビーカーや抱っこでは入りづらいイメージがあります。また、熱いラーメンをこぼしたり、子どもをあやしている間に麺がのびてしまったりする可能性もあり、他の飲食店よりも食事を楽しむハードルが高いと感じている親は少なくありません。
一風堂は、これまでも子ども連れの客に向けたさまざまなサービスをしてきました。
子ども用の椅子、プラスチックの取り皿、小さなスプーンとフォーク、麺カッター
デフォルトのルイボス茶の代わりに水
「お子様ラーメン」は大人より先に提供
辛い食材や苦手な食材の「◯◯抜き」または別皿で提供
キャンディープレゼント
積極的には発信してこなかったためか、「まだまだ店内では、他のお客様や店のスタッフの目を気にしている様子のお子様連れのお客様を目にすることもあります」。子連れウェルカムのメッセージが伝わっていないのでは、というジレンマがありました。
プロジェクトの背景には「お子様連れ大歓迎」の雰囲気をつくり、それを伝えたいという思い、そして「ラーメン界を牽引する存在としての責任感」もあったといいます。
「おいしい状態で」とつくり手
実は、一風堂には「抱っこチェンジ」という「隠れ名物」もあるそうです。
両親が交代で赤ちゃんを抱っこして食事をすることや、保護者が子どもに食べさせてから自分が食べることを想定し、店員が「タイミングをずらしておつくりしましょうか?」と提案するというものです。
これには「お客様にとって最適のタイミングで提供することで、一番おいしい熱々のラーメンを、お好みの麺の硬さで楽しんでいただきたい」という、つくり手の思いもあります。このため、自然発生的に生まれ、各店のスタッフに受け継がれてきたのだといいます。
この「抱っこチェンジ」と同様の取り組みは、他のラーメン店でも実施しているところがあります。
北海道帯広市のラーメン店「中華そば マル藤商店」は2022年1月、「お父さん、お母さんが順番に食べられるように、ラーメンをお出しするタイミングをずらしてお持ちいたします」と書いた張り紙の写真をInstagramに投稿し、約22万1000の「いいね!」がつきました。
張り紙には「せっかくの外食なので盛大に散らかし遠慮なく泣かせてください」とも。店主には3人の子どもがおり「せっかく大好きなパパママとご飯を食べに行く時くらいは、怒られたり、注意されることなく、楽しく、美味しく過ごしてほしいです」とコメントしています。
客からも広めたい
ホームページや張り紙などで知らせている店もあれば、お客の状況に合わせて声をかける「裏メニュー」的な取り組みをしている店もあります。
子育てや性教育についてYouTubeで発信しているつくし(@DosankoTsukushi)さんは、家族でラーメン店「魁力屋」を訪れたとき、店員から「1杯ずつ時間差で麺をゆでられます」と声をかけられました。そのおかげで熱々のラーメンを食べることができたとツイートしたところ、約4900リツイート、2.7万いいねがつきました。
「神対応」「行ってみたくなった」「憧れだったラーメンを諦めないで済む」といったコメントのほか、他店で同様のサービスを受けたことをシェアする投稿もありました。
つくしさんはツイートの反響について、OTEMOTOの取材にこう話します。
「お店がサービスを用意していても、そのサービスの対象となる方がそれを知らないということがあちこちで起こっていそうだなと強く感じました。そういうすれ違いはどちらの立場にとってももったいないので、『このサービス良いな』『たくさんの人に知ってほしいな』と感じるものは、お店側・利用者側を問わず積極的に発信していけるとよいのかもしれません」
「一方で、お店の規模やスタイルなどによっては、あらゆる方に向けたサービスを行うことが難しい店舗もあるはずです。自分の身の回りにもそういったお店はあるので、子連れで行きやすいお店・一人で行きやすいお店、それぞれを大事にしていきたいなと思っています」
著者:
小林明子
OTEMOTO創刊編集長 / 元BuzzFeed Japan編集長。新聞、週刊誌の記者を経て、BuzzFeedでダイバーシティやサステナビリティの特集を実施。社会課題とビジネスの接点に関心をもち、2022年4月ハリズリー入社。子育て、教育、ジェンダーを主に取材。