兵庫県西宮市の「森のようちえんさんぽみち」の園長"のんたん"こと野澤俊索さんが、幼児期の子育てで気になるあれこれを綴る連載。今回のテーマは「新学期の環境の変化」について。
新学期がスタートして1か月弱。子どもたちはそれぞれ新たな環境での生活に慣れようと奮闘しています。
新入園の子どもたちはもちろん、進級した在園児たちもクラスが変わったり、担任の先生が変わったり…気持ちがなかなか追いついていかず、登園しぶりをしたり、気持ちが不安定になってしまうことも。
そんな姿を見ると親としては、つい「おねえさん・おにいさんになったんだから大丈夫!」なんて励ましたりしがちですが、がんばるわが子にどう寄り添ったらよいのでしょうか。
「森のようちえん さんぽみち」園長の野澤俊策さんに、新学期を迎えた子どもたちの胸の内について教えていただきます。
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新学期を迎えると、子どもたちをとりまく環境は一変します。それは"人間関係"であったり、"立場や行動"であったり、"周囲の期待"であったりします。いろんなことが3月までとは、がらっと変わるのです。
3月を物事がすべて落ち着いた静穏の時期とすると、4月はみんなが新しい動きを始めた混沌の時期と言えるでしょう。落ち着くところを見つけて、もう一度しっくりおさまるには、子どもたちにとっても大人たちにとっても、もう少し時間と経験が必要なのです。
環境の変化に戸惑うのは健全なこと
今、私の園では毎朝、誰かが泣いています。新入生だけではなく、進級した子の中にも泣く子はいます。泣かなくても、幼稚園に行くのが嫌だと渋ったり、家に帰ってから泣いたりごねたりと赤ちゃん返りのようになる子もいます。
泣き声の大合唱も、"いやいや"の連鎖も、じつは春の芽吹きのように子どもたちの成長の芽が出てきた証拠です。これはとても健全なことなのです。
しかし、そんな不安定な子どもたちに大人は少し心配になることがあります。3月まではあんなに楽しそうにしていたのに、4月になって急に「行きたくない」と言ったり、泣いて離れなかったりするようになると、親としては心配になるのもわかります。
でも、子どもたちは一生懸命大きくなろう、変わろうとしているからこそ、うまくいかない壁にぶつかったり、不安に駆られたりします。そのときに子どもたちは泣いたり、ごねたりと不安定な姿を見せるのです。
人はいっぺんに大きくなる生き物ではありません。少しずつ、いろんなところが成長していき、最後にバランスがとれるのです。その過程では、バランスを崩して転んでしまうこともあります。そして、それを繰り返しながらちょうどいいところをみつけるのです。それが「成長」というものです。
進級した子どもたちそれぞれが抱える想い
年少から年中へ、また年中から年長へと進級した子どもたち。この子たちは、いつもと同じ園に通っているのに、いつもと違う環境に直面しています。
年長さんは、この前までいた旧年長さんがいなくなって、いろいろ教えてくれていた声がなくなりました。気づいたら自分が年長さんになっていて、その声を出さなくては、姿を見せなくてはとがんばっているのです。
年中さんになった子どもたちは、年少だったこの前までかけてもらっていた、大人や年長者の手も目も、今の年少さんの方へ向き、いろんなことを自分でやらなくてはいけない立場になりました。実際、子どもたちはもう何でもできるのです。でも、なんでもできるけど、やっぱり目をかけ手をかけてもらえなくなるのは寂しいもの…。
がんばったり、寂しかったり。そんな子どもたちは成長の境目にいます。その関を越えるとき、階段をひとつ登るようにぐっと大きくなるのです。
いま、泣いているのはその壁に向き合っているからです。目に見えていることは去年と何も変わらないけど、園の中で踏み出しているその一歩を、しっかりと感じて受け止めてあげてほしいと思います。
こうした心の動きはメンタルだけではなく子どもたちの体調に表れることもあります。発熱したり、おねしょをしたり、発疹ができたり。子どもたちはそれほど敏感です。
新しい環境に慣れるようにがんばることも大切だけど、たまには息抜きをして園をお休みするとか、リフレッシュすることも大事なことです。そんな時はいっぱい甘えさせてあげてOK!子どもと一緒に、ゆっくりじっくりと過ごす時間をとってあげてほしいと思います。
新学期は全員が通る成長のドア
朝、「ママがいい!!」と大号泣の合唱だった年少の子どもたちも、おはようの会が始まると何とかおはなしを聞こうとします。
がんばって涙をこらえることもあるし、先生のひざに抱っこされることもあるし、それでもやっぱり泣いちゃうことも…。そんなときには、周りの年中や年長のみんなに聞いてみます。
「なんで、泣いてると思う?」
すると、
「おかあさんにあいたいから」
「さみしいから」