今週のかに座の運勢
illustration by ニシイズミユカ
断絶から連続へ
今週のかに座は、みずからの存在のちっぽけさや、その一生の小ささとは裏腹な、何らかの巨大なものの運動の一部に取り込まれていくような星回り。
民俗学者の南方熊楠(みなかたくまぐす)は、自身の研究対象として深く魅了された粘菌の生態のなかに、生命の根源とも言うべき運動性を見出していった人物でもありました。
熊楠はそんな粘菌のきわめてミクロな生態のなかに、この宇宙のリアルな現実があますことなく表現されていることを確信し、そのメカニズムについて「常に錯雑し、生死あり。また生死の長短の時間があればこそ、世間が立ちゆくなり」とも述べました(『南方熊楠書翰―高山寺蔵 土宜法龍宛1893-1922』)。
あなたもまた、構造体フェーズにあるにせよ、変形菌フェーズにあるにせよ、そうした循環のプロセスのなかに自分もあるのだという実感が不思議と湧いてくるかも知れません。
今週のしし座の運勢
illustration by ニシイズミユカ
底のぬけた柄杓
今週のしし座は、自分の意志で人生を切り開いてなどいかないぞ、と力を抜いていくような星回り。
『惨として日をとどめたる大夏木』(高浜虚子)という句のごとし。昭和22年夏の作。作者が疎開先である小諸から離れたのがこの年の秋ですから、この頃はまだ都市部の悲惨な状況は見ていなかったはず。
そこらの普通の夏木を見て、抱いた感慨をそのまま詠んだのかも知れません。つまり、ごく普通の樹の頭上はるかに輝く夏の太陽をふっと見上げて、「惨」という文字を思い浮かべたのです。
あなたもまた、頑張り過ぎや気負い過ぎにはご注意を。
今週のおとめ座の運勢
illustration by ニシイズミユカ
狂暴で純粋な希求をなだめて
今週のおとめ座は、「僕たちの短い永遠」が終わっても、それでも人生は続いていくのだと思い直していくような星回り。
岡崎京子の『pink』はOL、夜は風俗嬢をしている若い女の子がワニを飼う話だ。彼女は「オマエは私のスリルとサスペンスなんだから」と言いながらワニを大層可愛がり、その餌代を稼ぐために身体を売っている。
彼女が普通の人と少し違っていたのは、その欲望が簡単に懐柔できるようなかわいらしいものなどではなく、どこか得体が知れず、常識だとか“普通のしあわせ”といった枠を大きく突き抜けたものだったということ。
あなたもまた、後ろ向きな孤独に逃げ込む代わりに、前向きな不安と共にみずからの望みをきちんと声に出し、口にしていくべし。
今週のてんびん座の運勢
illustration by ニシイズミユカ
闇路に闇路を踏み添えて
今週のてんびん座は、現実から消し去ったはずの真実が改めて浮上してくるような星回り。
『或る闇は蟲の形をして哭けり』(河原枇杷男)という句のごとし。闇の奥で虫が鳴いているのでは、ない。虫をかたどり、ひとつの生命として息づいている闇そのものが哭いているのだという。これは一種の異様な幻視幻聴体験を詠んだ一句と言えます。
現実の底に沈んでいたそれらの真実が、不意に闇にうごめく黒々とした蟲の姿をまとって、こちらに迫ってきた訳ですから、さぞや生きた心地がしなかったはず。
あなたもまた、今まであえて見ないふりや気付かないふりをしてきた真実が、そんな風に迫ってくることもあるかも知れません。