無料の会員登録をすると
お気に入りができます

[市川紗椰の週末アートのトビラ]三菱一号館美術館「異端の奇才——ビアズリー展」をご案内

picture

市川紗椰さんがアートを紹介する連載。第31回は三菱一号館美術館で開催中の「異端の奇才——ビアズリー展」を訪問しました。

今月の展覧会は…「異端の奇才——ビアズリー展」

“今の私たちに響くセンスと才能!時代を駆け抜けた稀有なアーティスト”

picture

市川紗椰が語る 「異端の奇才——ビアズリー展」

オーブリー・ビアズリーは、オスカー・ワイルドの戯曲『サロメ』、エドガー・アラン・ポーの小説『黒猫』の挿絵などで有名な19世紀末イギリスの画家。どこか頽廃(たいはい)的で耽美なイメージを持っていたのですが、それだけではないみたい。25歳の若さで亡くなった、彼の濃密で鮮烈な作品と人生に触れました。

ビアズリーが活躍したのは、主に文学作品や雑誌など印刷物の世界。小さなモノクロ原画が多く、当時の刊行物と見比べられるものもあります。長い歴史を持つファインアート(純粋芸術)と違い、イラストやデザインの世界に通じるような身近な印象。「’70〜’80年代の少女漫画の世界だ!」「これはアール・ヌーヴォーの原点ね」など、のぞき込んでは、今に至る影響に感心することが多かったです。会場である三菱一号館美術館の空間も、ビアズリーを鑑賞するのに最適。この建物がイギリス人建築家ジョサイア・コンドルによる設計で建てられたのは1894年。ビアズリーが『サロメ』の挿画で商業的・世間的に成功を得た年なのです。当時イギリスで流行し、彼も影響を受けたジャポニスムの陶器や銀製品、調度品なども展示され、時代のムードを体感できます。

そのわずか4年後に彼は死去。たった数年で多くの作品を残しました。展覧会ではそれらをたっぷりと堪能すると同時に、彼がどう生き、世間に受け入れられたかがわかるようになっています。そこから見えてくるのは、必ずしも耽美・頽廃の芸術家ではありません。私には、皮肉屋で洒落者で、常に絵の洗練を目指す仕事人のようなビアズリー像が思い浮かびました。遠くで眺める芸術というより、ぐっと近しく、見ていて楽しい。自分自身もおしゃれをして、美術館に赴いて愛でたいアート。類いまれなるセンスは、今も私たちの心を動かします。

文学、デザイン、ファッション、漫画、建築…どのジャンルにもつながる豊かな世界

picture

ビアズリーが原画と色指定を手がけたリトグラフ作品、雑誌『ステューディオ』をはじめ、書籍や演劇の宣伝ポスターを前に。配色と手描きフォントのセンスのよさにうっとり。展示室の壁は、深いグリーンやゴールドのさし色に作品中の装飾的デザインをあしらっていて、フォトジェニック!

picture

マントルピースなど、館内でも19世紀末らしい洋風建築を堪能できる

picture

『サロメ』の挿絵で、ビアズリーの性格が垣間見られる私のお気に入りは、この『月のなかの女』(1893年)。作者ワイルドの太った姿を揶揄する絵が隠れています(笑)

picture

ビアズリーが表紙だけでなく、企画や美術編集も担当した文芸誌『イエロー・ブック』

picture

彼の生きた時代にヨーロッパで流行したジャポニスム。三菱一号館美術館の所蔵品からも、写真の茶器などが展示されています

picture

ビアズリーは、絵の収入で自分の部屋を改装し、愛読する小説『さかしま』に登場するバラ色の壁を設えたそう。実際に彼が使ったテーブルと、自画像とともに

picture

短い生涯のなかで、どんどん進化し、挑戦する画力に驚き!

picture

「18歳未満は立ち入り禁止」と注意書きがされ、黒猫が見張るカーテンつきの展示室。ビアズリーが生活のために描いたポルノグラフィックな挿絵が、なまめかしいサテン生地の壁に展示されています。本人は死後破棄してほしいと望んでいたそう

トビラの奥で聞いてみた 市川紗椰×ゲスト・キュレーター 難波祐子さん対談

展示室のトビラの奥で、教えてくれたのは… ゲスト・キュレーター 難波祐子さん

市川 開幕以来、大盛況だと聞きました。どんなお客さんが多いのですか?

野口 まさに老若男女という感じで、お客さまのスタイルも、今どきの方から英国風、着物姿など様々です。予想をはるかに上回る入場者の多さに驚いています。

市川 ビアズリーの作品には、すごく色々なフックがある。文学、デザイン、ファッション、漫画に映画に音楽に建築……どこからも興味を惹かれる入り口があるので、ずっと人気なのがわかります。生前から脚光を浴びていたのですか?

野口 はい、21歳のとき、雑誌『ステューディオ』創刊号のために描いた仏語版『サロメ』のワンシーンによって、彼は出版業者の目に留まりました。そこで英訳版『サロメ』の挿絵を担当することになり、出版後一気に注目が集まったのです。

市川 同人誌の二次創作から、本編の挿絵に抜擢されたようなお話ですね(笑)。

野口 オスカー・ワイルドの作品の挿絵はそれまでチャールズ・リケッツが手がけていましたし、『サロメ』の物語はギュスターヴ・モローなど先行する画家も油彩で描いてきました。今回の展覧会ではそれらの作品も同時に展示しています。

市川 見比べると、いかにビアズリーの絵が斬新だったかがわかります。

野口 実はワイルドはビアズリーの絵に不満だったようで、ビアズリーもワイルドを皮肉っています。両者の関係は必ずしもよくはなかったといいます(笑)。

市川 そんなふうに人間くさい、生身の一面を見られるのも醍醐味ですね!

オリジナルサイトで読む
記事に関するお問い合わせ