「40歳」という年齢をどう捉えるか。今回は世間で"いい大人"の年齢とよく言われてしまう「40歳」という年齢に、自身の心とギャップを感じる方に伝えたい内容です。心のプロである公認心理師が綴ります。
Aさんは40歳の誕生日を迎えた朝、ふと「もっとしっかりしている自分でいるはずだったな」と思い、悲しい気持ちになりました。キャリアは思うように定まらず、パートナーとの関係には不安があり、自信は今も揺らいだまま。20代のころに思い描いていた「40代の自分」は、もっと堂々としていて、落ち着いた“大人”のはずでした。けれど、実際の私はいまだに迷いや不安を抱え、「こんなんでいいのかな」と心の中でつぶやいてしまうのです。周囲にはしっかりして見える人が多く、自分だけが取り残されているように感じることもあります。
でも、本当に“揺れている”のは自分だけなのでしょうか?
年齢と心のギャップに戸惑うとき
40代になると「もう大人なんだから」「そろそろ落ち着くべきだ」といった“理想の大人像”が、無意識のうちに自分を縛り始めます。こうした理想像とのズレは、心の中に「こんなはずじゃなかった」という違和感や自責感を生み出しやすくなります。しかし、よくよく周囲を観察してみると“完璧な大人”など、実際にはほとんど存在しません。多くの人が、内面では不安や迷いを抱えながらも、表面上は穏やかにふるまっているだけなのです。
見た目だけが大人になっていく違和感
社会的な肩書きや家庭環境、外見や容姿など、“外側”は年齢相応に整っていく一方で、“内側”の成長は意外と追いついていないこともあります。とくに、過去に満たされなかった思いや未処理の心の傷は、時間が経ってもそのまま残りやすいものです。大人になった自分の中に、いまだに迷い、傷つきやすい“若い自分” “子供の自分”が同居している――そんな感覚を覚えたことがある方も多いのではないでしょうか。それは決しておかしなことではありません。むしろ、それに気づける感性こそが大切なのです。
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「まだ悩んでいる自分」を否定しない
年齢を重ねてもなお、過去のトラウマや自己否定感に悩まされることはあります。そんなとき、「この歳でこんなことで悩んでるなんて」と自分を責めたくなるかもしれません。ですが、悩みがあることは人間らしさの証であり、心が動いているからこそ生じる自然な現象です。むしろ、「私はなぜこれほど揺れているのか」と自分に問いを向けられる力こそが、成熟の一歩だといえます。悩んでいる自分を否定せず、そんな自分に対して少しずつ優しい気持ちを向けてみましょう。
自己受容は「ゴール」ではなく「対話」
自己受容とは、すべての自分を肯定することだと誤解されがちですが、実際はもっと小さくて静かなプロセスです。「今の私はこう感じているんだな」と、ただ認めること。自分の気持ちや想いが存在することに「どんな気持ちになってもいい」と許可を出すこと。うまく受け止められない日があっても、自分を責めず、そっとそばにいてあげること。それは、自分との丁寧な“対話”を続けていくことなのです。否定するでも、無理に変えるでもなく、「そのままの自分と一緒にいる」姿勢が、心の回復につながります。
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揺れを抱えて生きるということ
40代という時期は、心身ともに揺らぎが生じやすい時期です。身体の変化、キャリアの見直し、家族や人間関係の再構築……さまざまな転機が重なりやすく、不安定になって当然とも言えます。こうした揺れは、「まだ整っていない証拠」ではなく、「人として自然な営み」なのだと受け止めてみてください。自分を大切にするセルフ・コンパッションの考え方に「コモン・ヒューマニティ(共通の人間性)」という視点があります。それは、「この苦しみは私だけのものではない」「人は誰でも不完全で、揺れながら生きている」という気づきです。そう思えることで、孤独感や自己否定から少し距離を取ることができます。
「私も、みんなも、揺れながら生きている」――この言葉が、あなた自身に向けるまなざしを少しやわらかくしてくれるかもしれません。