さまざまな悩みや不安が重なる40代。なかでも大きいのがお金への不安。ついつい使いすぎてしまう、なかなかお金をためられない、そもそもお金に対して漠然とした不安があるなど「もう40代だし、今さら変われない…」と諦めてしまっている人も少なくないのでは? でも、実は40代こそ“これからの人生を整え直す”大きなチャンスの時期。ファイナンシャルプランナーの視点に加え、お金との向き合い方を変える心の土台作りに寄り添う専門家・ファイナンシャルセラピストの岸原麻衣さんに、「40代からでも変えられるお金との付き合い方」のヒントをお聞きしました。
40代はマネースクリプトを書き換えるタイミング
――岸原さんのもとには、人生後半が見えてきたところで改めてお金のことに自分で向き合おうという40代の方が多くご相談にいらっしゃるとお聞きしました。
岸原さん:40代は、人生の前半をしっかり生きてきた経験があるぶん、「何が自分にとって幸せだったか」「何がそうではなかったか」を振り返りやすい時期です。子育てや仕事がひと段落し、自分に向き合いやすい条件が整っている人も多い。そういった意味で、マネースクリプト(お金に対する無意識の信念)を書き換えたり、自分のルーツを振り返って読み解いたりするにはとてもいいタイミング。「ここから人生後半、どうありたいか」を考え始められる時期なんですよね。
そういった時期に立ったからこそ、私のことを見つけて相談にいらしてくださる方が多いのかなと感じています。自分一人で振り返ると「あんな失敗をした」と自分を責めてしまいがちですが、第三者が入ると、失敗だけではない側面が見えたり、そこからどう行動につながっていったかをストーリーとして考えられたりしますから。
――40代からでも遅くないということですよね。
岸原さん:まったくその通りです。例えば、投資に関しても「今からだと遅いかな」とおっしゃる方が多いですが、40代だからこそ落ち着いて取り組めるというメリットがあります。昔は親や学校の先生から「投資は危ないもの、怖いもの」と教わったのに、今は「どんどんやってみよう」と推奨される時代。正反対のことを言われるわけですから、混乱するのも当然です。でも、年齢を重ねて“その混乱に向き合える状態”になっているところもあると思うんです。捨て身になることなく、地に足の着いた形で投資にも挑戦できるのではないかと考えています。
――ふいに将来のことが不安になり、焦って「今すぐNISAをやってみよう」などと思ってしまうこともありますよね。
岸原さん:NISAやiDeCoは資産形成に有用ですが、それが“今の自分の不安の根っこ”を本当に解消するのかは別問題です。「みんながやっているから私もやってみた。だけど、不安は消えない」というケースはよくあります。そんなときは、この漠然とした不安の中身を、丁寧に確かめてみるとよいでしょう。意外にも、自分だけ取り残されてしまうのが嫌、機会を逸して損をするのが嫌、などの具体的な恐れや焦りが顔を出すかもしれません。
余談ですが、短期間でうまくいかないと「また失敗しちゃった」と自己否定に陥ってしまうことも少なくありません。また、失敗が積み重なると「やっぱり私はダメなんだ」と考えてしまいがち。でも、運用にはそもそも年単位の時間が必要ですし、その道のりには失敗もあって当然なんです。相場の上下に一喜一憂して疲れてしまう場合もあるので、投資をするなら“年間”などの期間をあらかじめ決めて、距離をとって眺められる環境を作るといいと思います。そして、たとえ失敗しても「そんな自分を責めない」ことがとても大切です。
お金とうまく付き合うコツは「主体性を持つこと」
――お金とうまく付き合えている方には、どんな共通点を感じていらっしゃいますか。
岸原さん:お金を“道具”だと思っている人が多いように思います。自分の人生を豊かにするための道具。人に自慢するために物を買うのではなく、自分が満足するものを選び、大事に身につける。その主体性を持てるかどうかが、すごく大きいと思います。つまり、感情や衝動に飲み込まれず、自分の意思でお金を使える人。そういう人がお金と上手に付き合えている印象がありますね。
――少し話が変わりますが、推し活にも似た構造がありますよね。最初は“自分が楽しいから”お金を使っていたのに、途中で“他のファンに負けないため”になってしまうなど…。自分が主体ではなくなってしまっているというのは、気にするべきポイントなのかもしれないですね。
岸原さん:推し活をしていても、軸をきちんと自分に戻せる人はお金の使い方が安定しているのかなと思います。推しによって得られるものが大きく、それがあくまでも人生の一部であれば問題はありません。ただ、人生の全部をかけて推しているとか、カードの明細を見るのが怖い、グッズを買ったのに開けずに放置しているとなると、それはもはや“推し活依存”状態になっているのかも。買い物依存と同じで、一瞬の快楽の陰には「こんなに使って大丈夫かな」という健康な不安が隠れているものです。そんな不安や心の痛みに気づいたら、ぜひ専門家に相談してください。無理のない範囲で自分が楽しむための推し活ができるといいですよね。
メンタルを整えればお金との付き合い方も変わる
――お話を聞いていると、メンタルを整えることでお金の使い方や行動が安定するのかなと思うところもありました。
岸原さん:その通りだと思います。メンタル面が安定していないと、不安やストレスにさらされたときに「今すぐ満たされたい」という思いが強くなり、衝動買いに走ったり、“お金”という一見コントロールしやすそうなもの(実際はそんなことないのですが…)を使って自己治療しようとしたりすることがあります。逆にメンタルが安定していると、一拍置いて考えることができる。「今、自分はどう感じているのか」「これは本当に必要か」と立ち止まれるんですよね。無意識的に行動してしまうのか、意識的に選べるのか。それは、このメンタルの状態に左右されると思います。
――お金に関しては、どうしても漠然とした不安を感じやすく、それとうまく付き合っていくことは一朝一夕ではないなとも感じます。
岸原さん:不安は「変化がある以上なくならないもの」ですよね。でも、そうした漠然とした不安も、うまく付き合えば行動を促すエネルギーに変換していくことができます。まずは「私は今、不安を感じている」とありのままを認めることが、上手に不安と付き合う第一歩なのかなと思います。
そのうえでおすすめなのが、ボディースキャンという方法です。何か不安を感じたときに深呼吸をして、体のどこが緊張しているかを丁寧に感じていくものなんですが、例えばお金の不安を感じたときに手先が冷えてくるのなら「お金のことを考えると、緊張して指先に血液が巡りづらくなるんだな」といった具合に、体のサインを具体的な生理現象としてとらえていく。少しずつ続けると、「自分はどこで不調を感じとりやすいか」「日や状況によってどう変わるか」が見えてきます。漠然とした不安が体感覚として具体化されることで、不安に飲み込まれずに向き合いやすくなっていくはずです。
ただ、お金について不安を感じることは、その人の努力不足や能力の問題ではありません。それは“学ぶ機会がなかっただけ”なんです。お金はこれまでの人生を映し出す鏡のようなもの。良い悪いで、ジャッジするものではありません。不安や失敗を責めずに、「こんなこともあったな」といったん立ち止まって眺めてみてほしいです。「今このタイミングで、お金に不安を感じているのはどうしてだろう?」「この不安は、私に何を伝えようとしているんだろう?」そんなふうに問いかけてみることが大切だと思います。私も日々勉強しながら、失敗しながらです。一緒に自分と向き合うところから始めていきましょう。
お話を伺ったのは…岸原麻衣さん
臨床心理士|公認心理師|AFP(日本FP協会認定)
金融機関勤務を経て、お茶の水女子大学大学院 博士前期課程を修了後、臨床心理士と公認心理師を取得。2017年からプロフェッショナル・サイコセラピー研究所〈IPP〉に在籍。