猫の猫らしい行動に、自分の生き方を重ねてハッとする瞬間があります。編集ディレクターの野辺真葵さんもその一人。野良猫だったぐりを保護してからというもの、急に慌ただしくなった日常から、野辺さんが学んだこととは?
「猫あるある」をしない猫
たたずまいや動き、視線、どれをとっても穏やかで控えめな性格をにじませる「ぐり」(メス・推定6歳)。飼い主は、書籍編集などを手掛ける野辺真葵さんです。ベランダに置いたダンボールに「通い寝」に来ていた野良猫・ぐりに、持病が見つかったことから、同居を開始して5年が経ちます。
「動物を飼ったことがなかったので、一緒に暮らし始めてすぐはわからなかったんですけど、ぐりはいわゆる『猫あるある』をしない猫なんです。よかれと思って刺身をあげればツマしか食べず、人間の布団に潜りこんでくることもなければ、ゴロゴロ喉を鳴らして、足を踏み踏みすることもしない。猫だったら入らずにはいられないような袋や箱が置いてあっても見向きもしません(笑)」
ぐりが「猫あるある」に開眼!?
「ところがつい1年ほど前です。しんどい出来事があって、布団にうずくまりメソメソしていたら、ぐりが初めて私の布団にのぼってきたんです。半信半疑で布団を持ち上げてやると、すっと中に入ってきました。『クララが立った!ぐりが入った!』みたいな(笑)冷えていた心が一瞬にして温まりました」
飼い主の野辺さんが弱っていると察しての行動だったのかどうかはわかりません。でも、ぐりが布団に入って来たのは、その日が初めて。しかも、その日から端を発したように、ぐりが猫あるあるに開眼。リビングのソファでいつものようにくつろぐ野辺さんの上に乗って来ては、自分のポジションが定まるまで、ゴロゴロ&踏み踏みするようになったそう。
「やっと遠慮がなくなったのかなって。けっこう時間がかかったなとも思うけど、ホッとしたし、甘えてきてくれるのが純粋に嬉しくて」
生かし生かされて生きるのさ
窓から外の景色を見るのが好きなぐり。そんなぐりを見るにつけ、保護することで選ばせなかった、野良猫のままだった方のぐりの人生を思わずにいられないと野辺さん。
「飼い猫になったことが、ぐりの本意だったかどうかはわかりません。でも、少なくとも私は、ぐりが来たことで、息を吹き返したようなところがあります。ぐりが来てからというもの本当に忙しくて。エサやり、水替え、ブラッシング、ヒモ遊び、トイレ掃除。トイレなんて大小を問わず『今したから、一刻も早く片付けて』って、片づけるまで鳴き続けるんです(笑)
私はあまり体が強い方ではないので、ぐりが来る前は、食事も適当に横になっていることも多くて。でも、ぐりが来てからはそうも言っていられなくなりました。ぐりを生かすために起き上がって、お世話をして、ついでに自分の食事を摂って体力をつける。ぐりを生かすためが、ぐりに生かされているようなものです。
ぐりがしあわせかどうかは分かりません。でも、私とぐりが生かされ合っていることだけは確かです」
気にかけ、手をかける存在があることで人は強くなれる。ぐり、野辺さん、たくさんの教えをありがとうございます。
photo/筒井聖子
編集ディレクター・野辺真葵