東京・文京区の住宅密集地に、間口3m、奥行き10mの木造3階建てを新築。筋交いで建物を支えることで、広々とした空間を生み出した。
間口3m。筋交いが生み出す広々空間
東京23区の中心部に位置し、歴史と文化の街として発展してきた文京区。Kさん夫妻がこの地に家を建てたのが5年前。共働きで子育てをすることを考え、文京区育ちの奥様の実家の近くに住もうと思ったのがきっかけだった。
文京区という場所柄、限られた予算の中で購入できる建売住宅はとても狭く感じたという。そこで、土地探しからお願いしたのが石井井上建築事務所。「テレビの住宅番組で、いい雰囲気だなと思った家を手掛けていて、事務所も文京区だったのでお願いしました」(ご主人)。
いくつか提案のあったなかで、Kさん夫妻が決めたのは約16坪の細長い狭小地。そこに、間口3m、奥行き10mの木造3階建ての家を建築した。
「ご主人が『土地の特徴を活かして、建物も細長くしたほうが面白い』と言われたことが設計の決め手となりました」と当時を振り返るのは、建築家の石井大さん。通常、かなりの量の構造壁が室内に出るところを、見通せる筋交いで建物を支えるように設計した。天井高3mの2階は、階段部分に2つの筋交いを設置。リビング・ダイニングとキッチンを振り分けつつ、奥行きのある広々とした空間を実現した。4歳になる息子さんはひとつながりのワンルームを元気に走り回り、筋交いと絡んだ階段は格好の遊び場に。「筋交いがアクセントになり、楽しい家になりました」とご夫妻も微笑む。
2階は、間口3m、奥行10mの細長いワンルーム。天井高3mがより開放的に印象付ける。
「好きな家具を揃えていきたい」と、マルニ木工でジャスパー・モリソンのダイニングテーブルと椅子(手前)を購入。
筋交いのある階段奥がキッチン。ダイニングスペースと分けたのは奥様の希望。
使い勝手の良いコンパクトなキッチン。
階段は移動手段だけでなく、コミュニケーションの場にもなっている。
大きく窓をとったリビング。窓に筋交いを設け、耐震強化。
住宅が密集した狭小地。アウトドアが趣味のご夫妻にとってガレージは必須だった。
キャンピングカーの上部の棚は既製品の鋼製足場板を利用。アウトドアグッズが置かれている。
リゾート気分のバスルーム
K邸の天井は、木のまま見せた梁が一定間隔で並んでいる。生活しながら木で造られた家であることを実感できるのが心地よい。「都心部の住宅ゆえに準防火地域に属するものの、火災に強い“燃え代設計”を利用していることで、通常は石膏ボードで覆われるところを回避しました」(石井さん)。
階段を昇りきるとガラス張りの真っ白なバスルームが登場する。「リゾートホテル風なお風呂を希望しました」とはご主人。昼間は階段上の天窓からたっぷりの光が降り注ぎ、夜は季節によって天窓越しに月見風呂が楽しめるという。
この天窓からの光は2階のダイニングまで届き、北向きのリビングを明るく演出している。
3階まで階段を昇った右手には、扉のないガラス張りのバスルームがある。天窓を通して空が眺められる。
開閉式の天窓。階下に十分な光を届ける。
3階の左手(南側)には寝室がある。
3階の右手奥(北側)は将来の子供部屋。白い机はご主人が20年ほど前に「unico」で購入したもの。
家具職人!? 必要なものは自分で製作
今回、壁はご主人が中心になって塗装されたそう。「ビスを隠すために厚めに塗ったこともあり、時間がかかって大変でしたが、工事中に現場に入って大工さんの作業を見ていられるというのが楽しかったですね」。
その影響なのか、ここに住むまではあまり経験がなかったというDIYだが、いまではまるで家具職人のように製作しているという。キッチンのスパイスラックやコーナー収納、本棚、PC机……と数えきれないほど。
「生活していて、こういうのがあったらいいね、と言うと図面を描いて作ってくれます」と奥様。「ただ時間がかかりますけどね」と笑うご主人。暮らしながら、必要なものを自ら作り、住まいやすいように手を加えていくことで、家への愛着がさらに深まっていくという。
今、あったらいいなと思うものを訊いてみると、「屋上」とのこと。「料理に使うハーブなどを屋上で育てたい」と。なんでも作るKさんのこと。きっと何年後かに実現していることだろう。
玄関奥にある書斎は80cm高くなっている。PCデスクや棚などすべてご主人が製作したもの。壁に取り付けたガス暖炉がオシャレ。