人気ベーカリー「365日」のオーナーシェフ、杉窪章匡さん。日本でもっとも有名なパン職人のひとりですが、近年農業に力を入れています。「小麦を栽培したり、野菜を育てはじめた」というのです。パン職人がなぜ農業なのか。その理由をお聞きしました。
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小麦を栽培するパン職人
昨年末、地元多摩の農家にもらった小麦や、北海道で開発された複数の品種を畑にまきました。
田んぼは見たことがあっても、小麦畑を見たことがある人は少ないかもしれません。穂に
「ノギ」と呼ばれる、トゲのようなものが生えています。これが小麦です。
梅雨晴れで日差しが強く、ほとんどの人が帽子を被り、長袖姿でした。
6月下旬、多摩郊外の畑で10名ほどの若者が、農作業にいそしんでいました。コンバイ
ンを使わず、鎌で、黙々と小麦を刈り取り、収穫しています。
杉窪章匡さん。この日は、小麦の収穫に精を出していました。
その中にオーバーオールの男性がひとり。杉窪章匡さんです。
杉窪さんは、代々木公園にある人気ベーカリー「365日」や、素材にこだわった料理を提供するカフェ「15℃」・レストラン「ヨル15℃」のオーナーシェフ。
【365日】
住所/東京都渋谷区富ケ谷1-6-12
電話 03-6804-7357
営業7時〜19時
定休日2月29日
「365日」で人気の高いバコン フロマージュやブルーショコラなどが並んでいます。
【15℃】
住所 東京都渋谷区富ヶ谷1-2-8
電話 03-6407-0942
営業時間 7時〜23時
( CAFE CLOSE 17時30分、TAKEOUT CLOSE 23時)
定休日 不定休
また、全国に杉窪さんがプロデュースするパン屋があり、人気を集めています。
パン職人であり、飲食店経営者でもある杉窪さんが、この日、スタッフと一緒に、小麦を収穫していました。
「パンもケーキも素材ありき。素材から作らないと、完璧なものができません」(杉窪章匡さん)
「農家の手伝いをするなど、10年ほど前から農業を勉強しています。3年前ジョン・ムーアさんに『小麦を栽培しないか』と提案してもらったのがきっかけで、昨年12月小麦を育てることにしました」(杉窪章匡さん)
ジョン・ムーアさんとは
杉窪さんに小麦栽培をすすめたジョン・ムーアさん。
ジョンさんは、パタゴニア日本支社長だった方。2012年に一般社団法人「SEEDS OF
LIFE」を設立。現在代表理事として、昔の伝統的な在来種の植物を、未来へつなげる活動をしています。その一貫として、日本で昔から食べられてきた小麦を、20年前から栽培し、増やし続けています。
そもそもジョンさんは、なぜ昔の小麦を育てることにしたのでしょうか。
「この100年で私たちの食べ物のDNAの90%が消失しました。F1種や遺伝子組み換えが当たり前となり、多様性が失われてしまったのです。そして、食べ物の栄養価も大きく低下しています。小麦は、人類のメインとなっている食料のひとつ。ところが、度重なる品種改良や農薬との相互作用もあり、小麦がアレルギーの原因になってしまいました。
もう一度種から種を育て、人類の食料として、正しい小麦を育むことが大切だと思い、昔ながらの小麦を増やし続けています」(ジョン・ムーアさん)