エイジハラスメントとは、年齢で人を差別することです。さまざまな事例を交えて、職場や日々の生活にはびこるエイジハラスメントの原因や本質についてトイアンナさんが語ります。もしかして、あなたも加害者かも!?
トイアンナ
「もう若くないんだから、しっかりしてよ」なんてお小言を言われたことはないだろうか。私がこの言葉を人生で最初に記憶したのは、小学校1年生のときだ。
入学式が終わって早々、学校の先生に「もう小学生なんだから、しっかりしなさい」と言われ、子ども心に”しっかりするかどうかなんて、肩書きが小学生になったからっていきなり変わるわけないじゃん……”とモヤモヤしていた。
さすがにこれを「ハラスメント」だとは思うほど、被害妄想はたくましくない。けれどそれからも「もうハタチなんだから」「もう社員2年目なんだから」と言われるたびに、それってちがうんじゃない? と同じ違和感は抱き続けてきた。成長速度なんて人それぞれなのに、なぜ年齢で区切られなきゃいけないの?
内面化されるエイジハラスメント
そう思っていた私は小学生から30代になった。そして、あんなに年齢で区切られることに違和感を抱いていたはずが、年齢で相手を差別する加害者になった。
自分が年齢差別=エイジハラスメントをしていることに気づかされたのは、ある恋愛相談を受けていたときだ。相談者は当時35歳で、ズブズブの不倫にはまっていた。
「本妻から略奪したいなんて思ってない。不倫からの略奪婚なんて、覚悟を決めての結婚はしたくない。だけど結婚願望はあるから、アプリで出会いは探してるよ。でもさ、デートしてみるとやっぱり彼以上の人はいないなって思っちゃって。結局誰と会っても、付き合うまでは進めない」
ちょっとお読みいただくだけで、この不倫が前にも後にも進まないことはお察しいただけたと思う。そして、私はつい(この人が22歳だったらまだ若気の至りで許されるけど、もう35歳だからなあ……)と思ってしまった。
しかし、この「年齢とともに人は成熟するもの」という考えこそが、エイジハラスメントの本質なのだ。
私たちって、年齢とともに成長してきましたっけ?
ちょっと考えてみてほしい。自分って、20歳のころより成長しただろうか? 私はむしろ、退化した。20歳当時、私は世界から紛争を無くそうと国連への就職を夢見ていた。それが今や謎の恋愛コラムニスト。マジで何があったんだよ私の人生……書いてて空しくなってきちゃった……。
まあ、当時より今のほうが幸せだからいいけれど、年齢とともに脳みそはグズグズになったと思う。何度か通った店へ行くのでも道に迷うし、家に財布を忘れて外出しちゃうし。それなのに、「もう中堅なんだから」と成熟を求められても困る。とかなんとかえらそうなことを思っているくせに、不倫には年相応があると思ってしまったのだ。
人を「その齢でそれはヤバいんじゃないか」と判断することがエイジハラスメントだ。もうお姉ちゃんなんだから、もう中学生なんだから、もう30歳なんだし……とこれまで自然に受けてきたハラスメントだからこそ、自分もうっかり加害者になりやすい。
エイジハラスメントでは誰もが加害者になりうる
何より、エイジハラスメントは若手も加害者になりうるから怖い。「あの人もう50代なのにあの性格、ああいう大人にはなりたくないよね~」とケラケラ悪口で盛り上がるとき、エイジハラスメントは始まっている。自分が50代になったら絶対に”ちょっと前まで20代のつもりだったのにこの年になってしまった”とオロオロするくせに、うっかり加害できてしまうのだ。
エイジハラスメントを防ぐには、まず自分の加害意識をやめること。「もういい年なのに……」という言葉が脳裏に浮かんだら「あっ、いま私ってエイジハラスメントしてる~。あの人が未熟なのは人間性の問題で、年齢関係ないから!」と、もっとエグい判決を下そう。ダメな人は何歳でもグダグダするし、逆に5歳でもすごい人はすごいのだ。
私が32歳でしている酒の失敗は、22歳でもやっちゃダメだろう。「やらかし」も年齢で守られていいのは、未成年までである。逆に年下だろうが若手だろうが、自分より優れた人にはしっかり頭を下げて教えていただこう。年齢関係なくダメな振る舞いがあることを認めれば、年下でも優秀な人を見つけられる。
エイジハラスメントの防衛術
こうして自分の加害性へ敏感になれば、いざエイジハラスメントを受けたときも防衛できる。「あっ、いまこの人、年齢で私を判断したんだな」とセンサーが働くからだ。たとえば若いのに立派だね……と褒められるのだって、あなたのすばらしい能力を、若さで不当に値引きされているのと同じだ。あなたが立派なのはあなたがすごいからで、若いからではない。
逆に「もうXX歳なんだから」と変な気負いをするのもやめよう。もういい年なんだからピンクの服は買っちゃだめ、もういい年だし落ち着いた恋愛をしなきゃ……どれも一理あるけれど、たぶんイタリア人はそう思わない。
地球を半周すれば、ピンクのドレスを着たおばあちゃんがカツレツを切り刻みながらニコニコ笑っている。キューバなら人生で3、4回、結婚や離婚を繰り返すのも珍しくない。「年相応」は、今まで受けた差別の内面化でしかない。
もし「年相応」のエイジハラスメントを防ぎたいなら、まず自分の人生を年齢で制限しないこと。あなたは何歳でも思うとおりに生きていい。ピンクでも、恋愛でも、自分が好きなものを選択すればそれでいいのだ。自分の人生から年齢の足かせを外せば、他人のエイジハラスメントにも傷つかなくなる。まずは自分の囚われをなくそう。あなたは何歳でも素敵なのだから。
(トイアンナ)
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