京都市左京区、自然に囲まれた大原の里にたたずむ三千院(三千院門跡)。平安時代から長い歴史を紡ぐ門跡寺院は、桜や苔、紅葉が美しいことでも知られ、心に癒やしを求めて多くの参拝客が訪れています。今回は、三千院が歩んできた歴史やみどころ、アクセスなどを詳しくご紹介します。
比叡山・坂本・洛中…、安らぎの地を求めて旅した寺院
京都市街から車で北に約20分。歌枕にも詠まれた大原の里は、古くから戦乱や権力争いを避けるために、建礼門院(平 徳子)をはじめ、西行や鴨長明など、歴史の教科書に登場する人物などが過ごした地として知られています。
この大原を象徴する寺院として有名な三千院ですが、意外にも大原に移ったのは明治維新後のこと。元々は、延暦年間(782~806)に伝教大師最澄が比叡山延暦寺の東塔南谷(とうとうみなみだに)の山梨の大木の下に庵を結んだことが始まりだといわれています。
その後、第3代天台座主を務めた慈覚大師円仁に引き継がれ、平安時代後期に堀河天皇の皇子である最雲法親王(さいうんほっしんのう)が入室されたことにより、宮門跡となりました。
しかし、三千院は時代が経つにつれ、戦乱や火災を避けるために比叡山から麓の門前町である坂本、さらに洛中、東山、船岡山の麓など転々とし、寺院の名前も円融房(えんゆうぼう)、梨本坊(なしもとぼう)、梨本門跡(なしもともんぜき)、梶井宮(かじいのみや)、梶井門跡(かじいもんぜき)と変えています。
三千院が大原に移るのは、明治4年(1871)のこと。平安時代から天台宗と縁が深いこの地に根を下ろし、「一念三千(いちねんさんぜん)」という天台宗の教えから名前を「三千院」としました。その後は現在に至るまで、1200年以上の歴史を未来に向けて繋いでいます。
美しい景色に心癒やされる聚碧園(しゅうへきえん)
三千院は、客殿、宸殿(しんでん)、往生極楽院、あじさい苑などを回るのが一般的な順路となっています。参拝時間の目安は約45分~60分。靴を脱いだり履いたりすることが多いので、脱ぎ履きしやすい靴で訪れるのがおすすめです。
受付を済ませてまず入るのが客殿。その名の通り、来客と面会するための建物です。靴を脱いで順路を進むと苔むした緑が美しいミニ庭園が姿を表し、参拝客を出迎えてくれます。
さらに客殿の中を進むと、三千院を代表する庭園が見えてきます。江戸時代の茶人・金森宗和(かなもりそうわ)が修築したと伝わる聚碧園(しゅうへきえん)です。
手入れの行き届いたサツキや生け垣と苔むした飛び石や石橋、ひょうたん型の池が美しく調和を保っています。
お茶代(600円)を納めて、特等席から庭園を満喫できます。目の前に拡がる美景はもちろん、鳥のさえずりや葉擦れの音、抹茶の豊かな香りに、きっと心も落ち着くことでしょう。
自然と調和した宸殿(しんでん)と往生極楽院
客殿から回廊を進んだ先には、御所の紫宸殿(ししんでん)をモチーフに建てられた宸殿(しんでん)があります。本尊は伝教大師・最澄作と伝わる秘仏の薬師瑠璃光如来(やくしるりこうにょらい)。本殿に向かって左の西の間には歴代住職法親王の尊牌が祀られ、向かって右にある東の間には天皇陛下をお迎えするための玉座が設けられています。
宸殿から靴を履いて順路を進みます。苔むした緑に囲まれた絵になる空間の先には、三千院の歴史の源ともいえる往生極楽院(おうじょうごくらくいん)がたたずんでいます。
平安時代に『往生要集』を著した恵心僧都源信(えしんそうずげんしん)が、父母の菩提を弔うために、姉の安養尼(あんように)とともに建立したと伝えられています。
往生極楽院に祀られている阿弥陀三尊像はお堂に比べて大きいため、天井を舟底型に折りあげることで堂内に納めることができています。その天井には、極楽浄土に舞う天女や諸菩薩の姿が極彩色で描かれ、現在は肉眼で確認することが難しいですが、極楽浄土をそのままに表現されています。
わらべ地蔵がかわいい有清園(ゆうせいえん)とあじさい苑
この往生極楽院と宸殿の周囲に広がるのが、三千院を代表するもう一つの庭園・有清園(ゆうせいえん)です。杉や檜(ひのき)の木立と青々とした苔が美しい調和を見せ、池泉には滝から水が流れ自然の流れを表現。春はヤマザクラやシャクナゲ、夏の新緑、秋の紅葉に、雪景色と、四季折々の美しさで楽しませてくれます。
有清園の一角に、石彫刻家の杉村孝氏が手がけたわらべ地蔵が出迎えてくれます。苔と一体となった姿は、100年以上前からそこにあるかのよう。その優しく微笑む姿に、つい笑顔がこぼれてしまいます。
三千院の初夏を彩るのが、有清園の先にあるあじさい苑のアジサイ。例年6月中旬から7月中旬にかけて見頃を迎え、ホソアジサイやヤマアジサイなど、約1000株以上が華やかに咲き誇ります。
あじさい苑は高低差がある場所に設けられていますが、周遊路も整備されているので雨が降った日でも散策しやすいです。近くには東屋や休憩所も設けられ、休憩しながらアジサイを愛でられるのもいいですね。