木桶とそれ以外の選択肢
木桶の組み直しを何度かやるうちに、失敗したこともありました。
漏れが止まらなかったものは、底板がスギの特性上、縦と横で非対称に縮んでいたからだとあとでわかりました。また、廃業した蔵元から譲り受けた木桶は、棲みついていた微生物が醤油づくりに向かず、製造途中で廃棄したものもありました。必ず成功する保障がないのが、昔ながらの製法です。
コンクリートのタンク(写真奥)やFRPのタンクも併用している
Akiko Kobayashi / OTEMOTO
森田醤油店では木桶のほかに、FRP(繊維強化プラスチック)とコンクリートのタンクでも醤油を熟成させています。木桶の2倍、大きいものでは12倍の量が入るため、「安定した量と質で生産するには木桶以外の選択肢も必要」と森田さんは言います。
「木桶で仕込んだ醤油は、気候や温度管理、桶の個性によって100点以上のものができることもあれば、50点のものしかできないこともあります。FRPやコンクリートは安定して60点70点のものができ上がります。木桶だから無条件でいいというわけではなく、両方の特性を生かしていくことが大切です」
木桶の底板を再利用したテーブル(左)
Akiko Kobayashi / OTEMOTO
従業員休憩室(右)でも使用している
Akiko Kobayashi / OTEMOTO
それでも森田さんは、木桶仕込みや古い木桶への思い入れは人一倍あります。漏れてしまう木桶も、いつか直して使えるのではないかとずっと残しています。解体し、底板をテーブルとして再利用したものもあります。
竹製の箍は編み方や位置が決まっており、熟練した技術が必要
Akiko Kobayashi / OTEMOTO
息子の浩平さんは組み直しの技術を学び、竹で箍を編めるようになってきました。
先人たちが使った古い道具を直しながら大切に使い、昔ながらの製法で醤油をつくり続ける。そんな挑戦を続ける醤油蔵に観光客が見学できるルートをつくり、こどもたちが醤油づくりを体験できるようにするのが、森田さんの次の目標です。
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