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夏休みに人口が"倍増"する軽井沢。地元の人×移住者×別荘オーナーが交わる町。「壁はあってもいい」

全員で輪になって座る

軽井沢町では今、庁舎改築周辺整備事業の見直しが進んでいます。築56年になり老朽化した役場庁舎を建て替える必要があるものの、総額110億円のコストの情報公開が不十分だとして、2023年2月にいったん事業は凍結され、仕切り直しとなったのです。

「これは庁舎というハコモノにとどまらない話。町の未来をみんなで考えたい」

山﨑さんは公募委員として基本方針の見直しに関わることとなり、「住民との対話の場」の運営と実行に名乗りを上げました。行政が一方的に説明したり、計画に反対する住民が行政を突き上げたりするような「住民説明会」ではなく、もっと前の基本方針に住民の意見を反映することができる段階から、意見を集める必要があると考えたからです。

それは移住者である山﨑さん自身が、軽井沢町の住民の多様性を実感しているからでもありました。

「地元の人と移住してきた人と別荘の人、それぞれバッジをつけて歩いているわけではないものの、やはり経済面や文化的な背景に違いがあり、心理的な壁もあります。ただ、違いがあってもいいと思っています。重要なのは、どんな属性の人であっても、この町を良くするために一緒に考えようとすることです」

このため対話の場では、座席の配置にこだわりました。行政と住民が向かい合うのではなく、行政も住民も輪になるようにして座ったのです。特定の人が長く話し続けたり他の人の意見を否定したりすることがないよう、山﨑さんやプロのファシリテーターが議論をリードしました。

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2024年6月の「住民との対話の場」。「おしゃべり会」と名付け、それぞれの意見がより伝わるようリアルタイムでグラフィックでも表現した
写真提供:山﨑元さん

とはいえ山﨑さんは「移住者がリードして町を改革しているという構図にはしたくない」と強調します。

「町の魅力を発信する移住者はとかく注目されがちですが、先祖代々ずっと住んでいる高齢者も、固定資産税で町に貢献している別荘オーナーも、黙々と深く町を愛し続けている人たち。みんな重要なステークホルダーだととらえています。もちろん、こどももです」

対話の場はすべての参加者の意見をフラットに聞く場として、小中学生の参加も呼びかけました。参加した小学4年生の女の子は、帰りの車の中で母親にこう言ったのだといいます。

「未来ってどうなるかよくわかんないけど、こうやって話し合ってつくるんだね」

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Akiko Kobayashi / OTEMOTO

ほかの地域でもできること

軽井沢は、その洗練された環境から「東京24区」「港区軽井沢」などと呼ばれることがあります。東京から1時間ほどの距離、「サロン文化」や人気店舗の出店、子育て世帯の移住増などは「恵まれた環境」だとして、過疎に悩むほかの地方都市からは「比べることはできない」という声も聞こえてきます。しかし、山﨑さんはきっぱりと言います。

「確かに恵まれてはいますが、それ以外に特殊なところがあるとは思いません。高等教育機関や産業が少ないため若者は転出していきますし、高齢化も進んでいます」

「結局、どの地域でも言えるのは、町を良くしていきたいという人たちの声を、分け隔てなく聞こうとする姿勢が大事だということだと思います。軽井沢はさまざまな属性の人たちが交じり合う土地だからこそ、声を届けづらい人やこどもや若者が、夢や希望を語れる町にしていきたいです」

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OTEMOTO
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